米投資会社「アルケゴス」騒動は単発的な事故か、それとも危機の前触れか
過度なリスクテイクに関連するもう1つの問題は、金融機関サイドの危機管理が疎かになっていたことだ。
アルケゴスの創業者であるビル・フアン氏は、ヘッジファンド界の伝説的存在であるジュリアン・ロバートソン氏が設立したタイガー・マネジメントの元トレーダーとして高い運用成績を残した経歴を持つ。だが過去にはインサイダー取引で有罪となり、ウォール街ではしばらくブラックリストに載っていたと言われる。
ところがここ数年、大手金融機関は同氏との取引を再開しただけでなく、多額の手数料収入を目当てにこぞってサービスを提供していたようだ。
ブルームバーグの編集主幹はアルケゴスを取り巻く状況を「リスク管理の破滅的な機能不全」と呼んだ。
LTCMやベアー・スターンズではない
目下懸念されているのは今回の騒動が金融システム全体に波及する可能性だが、市場では今のところこれが単発的な事故であり、損害が連鎖的に拡大する恐れはないとの見方が優勢のようだ。
アリアンツ首席経済アドバイザーのモハメド・エラリアン氏はヤフー・ファイナンスとのインタビューで、短期的かつ直接的に波紋が広がる恐れはないとし、「これはLTCMでもベアー・スターンズでもない。過剰レバレッジとポジションの集中にデリバティブが重なった個別の案件で、起きるべくして起きた事故と言える。(中略)だが、金融システムの大規模なレバレッジ解消を引き起こすものではない」と述べた。
とはいえ注視していく必要はあるとして、「システムに流動性があふれかえると、過度で場合によっては無責任なリスクテイクにつながる」と警告した。
今後の注目は、これを機に規制強化や透明性向上に向けた動きが活発化するか否かだ。米証券取引所(SEC)はフアン氏に対する初期段階の調査を開始したと報じられているほか、イエレン米財務長官は今週、就任後初めて開催した金融安定監視評議会(FSOC)でヘッジファンド活動に関連する最近の相場動向について議論し、金融安定へのリスクなどを調査するため専門の作業部会を5年ぶりに復活させることを決めた。
ウォール街に批判的なエリザベス・ウォーレン上院議員はツイッターへの投稿で、アルケゴスの破綻は「危険な状況を作り出す全ての要素を持っている」とし、「次に勃発するヘッジファンドの問題が経済を道連れにしないよう透明性と強い監視が必要だ」と訴えた。
ジェンキンス沙智
フリーランスジャーナリスト兼翻訳家。
テキサス大学オースティン校卒業後にロイター通信に入社し、東京支局で英文記者としてテクノロジー、通信、航空、食品、小売業界などを中心に企業ニュースを担当した。2010年に退職・渡米し、フリーランスに転向。これまでに、WSJ日本版コラム「ジェンキンス沙智の米国ワーキングマザー当世事情」を執筆したほか、週刊エコノミストやロイターなどの媒体に寄稿した。現在は執筆活動に加え、大手金融機関やメディアを顧客に金融・ビジネス・経済分野の翻訳サービスを提供している。JTFほんやく検定1級翻訳士(金融・証券)。米テキサス州オースティン近郊在住、愛知県出身。
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