【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル
ARE THEY TO BLAME?
日本が世界に誇ると注目されたクラスター対策だが、実際に支えているのは人間と人間の関係性を築き情報を得るという現場での地道な作業にほかならない。信頼があればデータは集まり、その逆ならリンクは早々に途切れる。データ以上に現実は、感染再拡大の危機が新宿区でも目前に迫っていることを教えていた。
区とホストの「ホットライン」
新宿区役所の応接室に吉住、高橋、保健師、すぐさま呼び掛けに応じた手塚が集まったのは翌2日である。手塚は吉住の初当選以前から面識があったが、さほど親しく付き合ってきたわけでない。だが「知った顔」であること、が今回は幸いした。
開口一番、吉住から手塚に「教えてほしい」内容をこう伝えた。
「どうもホストらしい人たちが感染している。店の名前も言ってくれないし、連絡が取れなくなってしまうときがある。何が嫌で答えたくなくなるんだろうか。分かるようなら教えてほしい」
手塚はこの発言に意表を突かれた。受け取ったメッセンジャーの文面から察するに、「また自粛、店を閉じてほしいと相談をされるのではないか」と警戒心を持ちながら、区役所に入ったからだ。
ところが、その場で吉住と高橋らが強調したのは「自分たちはホストクラブが日頃から検査や衛生面で協力的なのを知っている。報道されるような悪いイメージは全く持っていない。とにかく大事なのは感染拡大防止であり、区民の健康を守ること。そのために協力してほしい」ということだった。
敵対ではなく歩み寄りである。行政側からすれば、ホスト界の顔として社会的にも業界にも影響力を持つ手塚を通じて、パイプをつくりたいという思惑は確かにあった。その狙いはホストクラブが反発必至の「自粛要請」ではなく、検査協力の呼び掛けであり、「このままだと行き詰まってしまう」という強い危機意識の表れでもあった。
加えて高橋が会談で強調したのは、保健所の狙いを的確に説明することだった。保健所は感染者のプライバシーは絶対に守ること、店に営業禁止を命じる権限もないこと。接触者調査で必要なのは、患者の勤務状況、最終出勤日、行動履歴、フロアの状況や座席配置などであり、これはどこの企業にも求めているものだ。
吉住は言った。「私たちは犯人捜しがしたいわけではない」
感染症には3段階あると言われている。第1段階は感染症そのものの広がり。第2段階は「心理的感染症」と呼ばれるもので、感染に対する不安や恐怖心が広がること。そして、第3段階が「社会的感染症」と呼ばれるものだ。感染への不安や恐怖がベースとなり、特定の人たちに対する差別、偏見を生み、嫌悪をぶつけるべき対象が社会の中に誕生する。言うなれば、感情の感染症だ。
新宿区はウイルスによる感染症と感情の感染症に、同時に立ち向かう必要があった。手塚は行政の要請に応えることを決めた。