最新記事

ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル

ARE THEY TO BLAME?

2021年4月2日(金)16時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR210401_kabukicho2.jpg

新宿区長の吉住(左)と新宿区保健所長の高橋(右)はホストたちを敵視しなかった HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

日本が世界に誇ると注目されたクラスター対策だが、実際に支えているのは人間と人間の関係性を築き情報を得るという現場での地道な作業にほかならない。信頼があればデータは集まり、その逆ならリンクは早々に途切れる。データ以上に現実は、感染再拡大の危機が新宿区でも目前に迫っていることを教えていた。

区とホストの「ホットライン」

新宿区役所の応接室に吉住、高橋、保健師、すぐさま呼び掛けに応じた手塚が集まったのは翌2日である。手塚は吉住の初当選以前から面識があったが、さほど親しく付き合ってきたわけでない。だが「知った顔」であること、が今回は幸いした。

開口一番、吉住から手塚に「教えてほしい」内容をこう伝えた。

「どうもホストらしい人たちが感染している。店の名前も言ってくれないし、連絡が取れなくなってしまうときがある。何が嫌で答えたくなくなるんだろうか。分かるようなら教えてほしい」

手塚はこの発言に意表を突かれた。受け取ったメッセンジャーの文面から察するに、「また自粛、店を閉じてほしいと相談をされるのではないか」と警戒心を持ちながら、区役所に入ったからだ。

ところが、その場で吉住と高橋らが強調したのは「自分たちはホストクラブが日頃から検査や衛生面で協力的なのを知っている。報道されるような悪いイメージは全く持っていない。とにかく大事なのは感染拡大防止であり、区民の健康を守ること。そのために協力してほしい」ということだった。

敵対ではなく歩み寄りである。行政側からすれば、ホスト界の顔として社会的にも業界にも影響力を持つ手塚を通じて、パイプをつくりたいという思惑は確かにあった。その狙いはホストクラブが反発必至の「自粛要請」ではなく、検査協力の呼び掛けであり、「このままだと行き詰まってしまう」という強い危機意識の表れでもあった。

加えて高橋が会談で強調したのは、保健所の狙いを的確に説明することだった。保健所は感染者のプライバシーは絶対に守ること、店に営業禁止を命じる権限もないこと。接触者調査で必要なのは、患者の勤務状況、最終出勤日、行動履歴、フロアの状況や座席配置などであり、これはどこの企業にも求めているものだ。

吉住は言った。「私たちは犯人捜しがしたいわけではない」

感染症には3段階あると言われている。第1段階は感染症そのものの広がり。第2段階は「心理的感染症」と呼ばれるもので、感染に対する不安や恐怖心が広がること。そして、第3段階が「社会的感染症」と呼ばれるものだ。感染への不安や恐怖がベースとなり、特定の人たちに対する差別、偏見を生み、嫌悪をぶつけるべき対象が社会の中に誕生する。言うなれば、感情の感染症だ。

新宿区はウイルスによる感染症と感情の感染症に、同時に立ち向かう必要があった。手塚は行政の要請に応えることを決めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中