【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル
ARE THEY TO BLAME?
彼も彼で、歌舞伎町の現状に対して、思うことはあったからだ。第1に一度、コロナの感染拡大の波が止まったのに、歌舞伎町からまた火が付いた。あそこが感染源になっていると言われるのは「嫌だな」ということ。第2に、メディアや東京都知事の小池百合子が連呼する「夜の街」という言葉によって生まれる悪い「風評」を何とかして防ぎたいという思いがあったことだ。
4月から5月の営業自粛期間を通じて、他店の経営者と初めてと言っていいくらい踏み込んだ意見交換をしていたので、彼らの考えも分かっていた。歌舞伎町におけるホストクラブはただの「店」ではない。多くはホストクラブを中核にバーや飲食店を経営し、一大企業グループになっている。彼らは広く社会に存在している多くの経営者と同じである。手塚が発信しているような、あるいは考えてきたホストクラブの文化的、社会的な意味や歌舞伎町のこれからという視点よりも、経営者は「今」を大事にする。
手塚の回想──「歌舞伎町は2月の時点では危機感ゼロ、3月でこれは少しやばいという空気が出てきて、4月は多くの店が休みました。5月中旬以降に少しずつお店を開けるようになり、6月1日には全面的に開けるようになった。でも、お客さんが戻っているかというと、完全には戻らない。うちは対策をして再開したけど、中には対策が行き届かないまま始めたところもある。業界全体では足並みがそろってはいない。それは世の中と同じです。危機感が強い人もいれば、弱い人もいる。その中で対策を施さないといけない」
その中で彼にできることはといえば、自身が行政とホストクラブ側のハブとなり、両者をつなぐことでしかない。手塚はこんな提案をした。
「自分たちも感染したくないし、感染もさせたくない。風評を防ぐためなら協力してくれるでしょう。今後の検査や調査に協力してもらうためにも、直接会ってプライバシーは守る、と話してください。僕から話すよりも、区長や所長から話してもらったほうがいいと思います。すぐにやりましょう。夕方1時間でもいいです。枠を下さい」
区側はこの提案に乗り、3日、4日と区長たちの日程を確保した。手塚は手応えを感じていたが、すぐに連絡を取った有力店舗の経営者たちの反応は薄いものだった。
「もう営業してるでしょ。やぶ蛇だよ。保健所と協力したらさらに名指しされるよ」
「都知事もメディアも行政も俺らの敵でしょ。区長もそっち側だろ」
「協力したら名前が公表されるだけ。行政は信頼できない」
根深い不信感が残っており、3日に集まったのは手塚と、彼の「言うことを聞いてくれる後輩」2社の経営陣だった。
「区長、すいません。これしか集められなくて......」
「いいんです。私は手塚さん1人でも待ちましたよ」
「後輩」たちは吉住たちの前で自分たちの対策のガイドラインを堂々と説明した。さらに、体調不良者が出た場合、どの段階でPCR検査を受けに行ったらいいのか、陽性者が出た場合、具体的にどのようなルールを設けて店の閉店や開店を判断したらいいのか区側と意見を交わした。
区や保健所側も意見に耳を傾け「それならば検査のホットラインをつくろう」と提案した。経営者たちが強く警戒していたクラスターが発生した店舗名公表についても、区側にその発想はないと明言した。