最新記事

ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】歌舞伎町ホストたちの真っ当すぎる対策──「夜の街」のリアル

ARE THEY TO BLAME?

2021年4月2日(金)16時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

彼も彼で、歌舞伎町の現状に対して、思うことはあったからだ。第1に一度、コロナの感染拡大の波が止まったのに、歌舞伎町からまた火が付いた。あそこが感染源になっていると言われるのは「嫌だな」ということ。第2に、メディアや東京都知事の小池百合子が連呼する「夜の街」という言葉によって生まれる悪い「風評」を何とかして防ぎたいという思いがあったことだ。

4月から5月の営業自粛期間を通じて、他店の経営者と初めてと言っていいくらい踏み込んだ意見交換をしていたので、彼らの考えも分かっていた。歌舞伎町におけるホストクラブはただの「店」ではない。多くはホストクラブを中核にバーや飲食店を経営し、一大企業グループになっている。彼らは広く社会に存在している多くの経営者と同じである。手塚が発信しているような、あるいは考えてきたホストクラブの文化的、社会的な意味や歌舞伎町のこれからという視点よりも、経営者は「今」を大事にする。

magSR210401_kabukicho3.jpg

手塚が経営する店 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

手塚の回想──「歌舞伎町は2月の時点では危機感ゼロ、3月でこれは少しやばいという空気が出てきて、4月は多くの店が休みました。5月中旬以降に少しずつお店を開けるようになり、6月1日には全面的に開けるようになった。でも、お客さんが戻っているかというと、完全には戻らない。うちは対策をして再開したけど、中には対策が行き届かないまま始めたところもある。業界全体では足並みがそろってはいない。それは世の中と同じです。危機感が強い人もいれば、弱い人もいる。その中で対策を施さないといけない」

その中で彼にできることはといえば、自身が行政とホストクラブ側のハブとなり、両者をつなぐことでしかない。手塚はこんな提案をした。

「自分たちも感染したくないし、感染もさせたくない。風評を防ぐためなら協力してくれるでしょう。今後の検査や調査に協力してもらうためにも、直接会ってプライバシーは守る、と話してください。僕から話すよりも、区長や所長から話してもらったほうがいいと思います。すぐにやりましょう。夕方1時間でもいいです。枠を下さい」

区側はこの提案に乗り、3日、4日と区長たちの日程を確保した。手塚は手応えを感じていたが、すぐに連絡を取った有力店舗の経営者たちの反応は薄いものだった。

「もう営業してるでしょ。やぶ蛇だよ。保健所と協力したらさらに名指しされるよ」

「都知事もメディアも行政も俺らの敵でしょ。区長もそっち側だろ」

「協力したら名前が公表されるだけ。行政は信頼できない」

根深い不信感が残っており、3日に集まったのは手塚と、彼の「言うことを聞いてくれる後輩」2社の経営陣だった。

「区長、すいません。これしか集められなくて......」

「いいんです。私は手塚さん1人でも待ちましたよ」

「後輩」たちは吉住たちの前で自分たちの対策のガイドラインを堂々と説明した。さらに、体調不良者が出た場合、どの段階でPCR検査を受けに行ったらいいのか、陽性者が出た場合、具体的にどのようなルールを設けて店の閉店や開店を判断したらいいのか区側と意見を交わした。

区や保健所側も意見に耳を傾け「それならば検査のホットラインをつくろう」と提案した。経営者たちが強く警戒していたクラスターが発生した店舗名公表についても、区側にその発想はないと明言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、ロ産原油輸入停止法案先送り 「地政学的状況

ワールド

米TSA職員450人超辞職、2月政府閉鎖以降 空港

ワールド

世界経済フォーラム、サウジで4月開催の会議延期 「

ワールド

中国外相、和平交渉の早期開始呼びかけ イランのアラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 8
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 9
    表情に注目...ニコール・キッドマン、大富豪夫妻から…
  • 10
    イラン戦争、トランプを泥沼に引きずり込む「5つの罠…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中