最新記事

ミャンマー

【ミャンマー現地ルポ】デモ取締りの警察官に警棒で殴られ拘束されて

Bloody Street Tales

2021年4月1日(木)11時30分
北角裕樹(ヤンゴン在住ジャーナリスト)
ミャンマー、クーデター反対デモ

デモ隊弾圧で当局に銃撃された男性を運ぶ人々(3月14日、マンダレー) REUTERS

<市民を脅迫、宅配を強盗、子供も射殺──ミャンマー警察に警棒で殴られ、拘束された日本人ジャーナリストが身をもって知ったデモ弾圧の現状と抵抗運動の針路>

逃げられない――。重装備の警察隊の挟み撃ちに遭い、そう思って手を上げた私の体を4~5人の警察官が押さえ付け、腕を後ろ手にねじり上げた。ヘルメットや防弾チョッキの上から、ガツンガツンという重い衝撃を受けた。目撃者によると、警棒で殴られていたらしい。そして警察官らは私を護送車まで引っ張っていき、尻を蹴って中に押し込んだ。

2月26日午前、ミャンマー(ビルマ)最大都市ヤンゴンのミニゴン交差点付近で、国軍によるクーデターに反対するデモを取材していた時のことだ。当初は数千人のデモ隊が、歌を歌ったり、掛け声を掛けたりして、平和的に抗議していた。しばらくすると当局の鎮圧が始まり、そのなかで私は拘束されたのだった。

しかし、この程度の暴行は、その後ミャンマー各地で警察や兵士によって行われた数々の残虐行為に比べれば、ごく軽いものだった。市民団体、政治犯支援協会(AAPP)の3月26日までの集計では、少なくとも328人が当局の銃撃などで命を落とし、3000人超が拘束されたり罪に問われたりしているのだ。

約40人の記者が拘束されたほか、地元メディアが次々と家宅捜索を受けるなど、メディア弾圧も強まっている。外国人である私は半日で解放されたが、翌日の取材中に捕まった友人のミャンマー人女性記者はまだ釈放されていない。

2月下旬から実力行使に出た当局は弾圧をエスカレートさせ、3月3日にはヤンゴン北オッカラ地区でデモ隊に向かってマシンガンを掃射、その結果数十人が死亡した。現地でデモ参加者をかくまった住民は「胸に銃を突き付けられた状態でゴム弾を撃たれた」と証言している。また、14日にはラインタヤ地区で掃討作戦を行い、少なくとも38人が死亡したとされる。

警察官らが市民を恐喝

当局の攻撃の対象は、デモ隊だけでなく、市民全体に広がっている。ヤンゴン西のサンチャウン地区などでは、警察と兵士の混成部隊が、街を取り囲んでデモ隊を逃げられないようにした上で家宅捜索を行い、多数のデモ隊や住民を拘束していった。

国軍側がデモ参加者だけでなく住民を敵視しているのは、住民の多くがクーデターに反対していることに加え、抗議活動でデモ隊と住民が連携していることが原因だろう。住民は道路に土のうやドラム缶でバリケードを築き、見張りを立てて、当局の部隊が近づいてきたら携帯アプリなどでデモ隊に知らせる。そしてデモ隊を自分の部屋にかくまう。

このため、国軍側は住民全体を脅迫し、恐怖によって抵抗の意思を奪う作戦に出ている。例えば私が自宅近くで目にしたのは、強制的に連行された住民たちが、自ら築いたバリケードを撤去させられている姿だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中