最新記事

ミャンマー

【ミャンマー現地ルポ】デモ取締りの警察官に警棒で殴られ拘束されて

Bloody Street Tales

2021年4月1日(木)11時30分
北角裕樹(ヤンゴン在住ジャーナリスト)

myanmar20210401bloodystreettales-2.jpg

抵抗の意志を示す3本指サインを掲げて抗議するデモ隊(3月13日、ヤンゴン) YUKI KITAZUMI

付近住民によると国軍側は「来なければ殺す」などと脅して30人ほどを徴用、土のうなどの撤去作業に当たらせた。そして夜間には警察車両が巡回し、「もう一度バリケードを作れば、地域住民の全員に対して法的措置を取る」などと拡声器で住民を脅すのだ。3月中旬以降、こうしてヤンゴンの多くの地区でバリケードが撤去され、デモができる場所は少なくなっている。

警察官や兵士の素行が悪いことも、住民に恐怖を与えている。自転車で食事を届ける宅配業者のスタッフを、彼らが恐喝して、食べ物や金を奪う事件が頻発している。また、デモ隊が利用する喫茶店などを当局が襲撃するケースもある。当局がブルドーザーで駐車中の数十台の乗用車を破壊したこともあった。

中部マンダレーでは23日、家宅捜索を行った当局によって、父親に抱かれた7歳の女児が銃撃されて殺される事件が起きている。こうした兵士や警察官の蛮行が取り締まられることはなく、むしろ国軍側は兵士らの略奪や暴行を利用して、住民を恐怖のどん底に陥れようとしているようだ。

クーデター以降、抗議活動を行うミャンマーの市民は驚異的な忍耐強さを見せてきた。デモ隊は武器と言えるほどの武器は持たず、金属製や木製の盾を用意したり、水風船を投げて兵士に嫌がらせをしたりする程度だった。それは、拘束中のアウンサンスーチー国家顧問の信念でもある、非暴力の抵抗という国民的コンセンサスがあったからだ。

対軍「連邦軍」の構想も

しかし当局の弾圧が厳しさを増し、国際社会の動きも遅いというなかで、3月中旬頃から、手製の火炎瓶や発煙筒、スリングショットなどを用いるデモ隊が出てきた。住民の中にも、「警察が家にやって来たときのため」として、包丁などを武器に用意する人も出てきた。14日には、昨年の総選挙で当選した議員らが国軍に対抗して組織した連邦議会代表委員会(CRPH)が、「住民には自己防衛権がある」として、命や財産を守る行動は罪にならないと宣言した。デモ隊はこれを、「ある程度の武器使用は許される」と受け取った。

追い詰められた市民は、今後の抗議活動の方向性に悩み、現在議論を重ねているところだ。外国人である私に意見を求める若者は多い。「もし武力闘争に出たとしたら、国際社会はどう思うか」と。

そして彼らが最後に決まって吐露するのは、「このまま平和的に抗議をしても、捕まって、殺されるだけではないか」という思いだ。当初デモ隊には「非暴力の抗議であれば、国軍もそう乱暴なことはできない」という認識があった。しかし平和的なデモに対してマシンガンまでもが使われる事態になり、非暴力路線の限界を感じてきているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中