ロケット砲で80人以上が死亡、200人以上が行方不明か 内戦の危機迫るミャンマー情勢
バゴー市周辺では国軍の攻撃から逃れるため一時避難した市民も多く、自宅に戻れず孤立しているものの、国軍の監視が厳しく救済活動も難航している模様だ。
少数民族武装勢力と国軍の戦闘勃発
また4月10日には北西部のインド国境に近いザカイン地方のタムで地元の武装勢力と国軍が衝突、銃撃戦となった。「イラワディ」の報道や地元の少数民族武装勢力「クキ民族組織(KNO)」や「クキ民族国軍(KNA)」などの情報によるとこの戦闘で兵士と警察官18人が死亡、市民1人も死亡したという。
これより前の4月6日には南東部モン州ドゥパラヤ地区で「カレン民族同盟(KNU)」と国軍との交戦が伝えられたほか、7日にはアイヤルワディ地方のカレイ市内で武装勢力と国軍が戦闘状態になり、国軍側はマシンガンを使用したといわれている。
このほかに東中部シャン州の「シャン州国軍(SSA)」や東部カレン(カイン)州のKNU、北部カチン州の「カチン独立国軍(KIA)」なども反軍政を掲げて抗議活動を続ける市民への連帯を表明して武装抵抗で連携する動きを強めており、今後ミャンマーでは国軍と少数民族武装組織による本格的な内戦に発展する懸念も高まっている。
内戦と国軍による大虐殺の危機
こうした状況の中、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相率いる民主政権がクーデター後に結成した「連邦議会代表委員会(CRPH)」によって国連大使に任命されたササ医師が9日、日本の外国特派員協会のオンライン会見に登場してミャンマーの厳しい現状を訴えて国際社会の協力と支援を強く求めた。
そしてササ医師は「遠くないうちにミャンマーは内戦状態になり、国軍による大量虐殺が始まる可能性が高い」と発言して、ミャンマー情勢の今後に関して悲観的な見方を示した。
強権的な姿勢で人権侵害、人命無視の弾圧を続けるミャンマー国軍に対して、非武装無抵抗の反軍政運動を続ける市民や学生の間からも「果たしてこのまま一方的に虐殺されるままでいいのか」という意見も生まれてきているという。
反軍政の活動は地方で国軍への攻勢を強めている少数民族武装勢力との共闘を含めて大きな転換点に差し掛かっているといえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など