最新記事

中国

「中露朝韓」急接近!──ラブロフ外相訪中「モスクワ便り」

2021年3月26日(金)14時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)


共産党という組織に守られている中国共産党のリーダーたちもこの点では公開討論にも慣れていないし、こんな提案はできないかと思います。

ロシアから見ると、2014年のクリミア併合以来、ずっと欧州と米国の理不尽な振舞に怒りまくり、耐えてきたところに、中国という同志が現れたことは朗報だろうと思います。

ラブロフ外相訪韓と中朝首脳親書交換

習近平にはロシアとの関係を徹底的に強化して、対米戦略を練っていくという狙いがあることは確かだ。

その証拠に3月23日の夕方、ラブロフは韓国を訪問した。

24日に行われる韓露国交樹立30周年を記念する「2020-2021韓露交流の年」開幕式に出席するためという口実はあっても、中国が韓国を中露側に引き寄せるための行動であることは明らかだ。力関係から言って、習近平がプーチンに頼み、プーチンがラブロフに訪韓させたと見るのが正しいだろう。

というのは、「モスクワの友人」によれば、ロシアにおけるラブロフの訪中は、そんなに大きく扱われてはおらず、訪韓に関してはほとんど報道されていないとのこと。それに比べて中国におけるラブロフの行動に関する報道の扱いは尋常ではなく大きく熱が入っている。訪韓のニュースも、私自身、実は中国の報道で知った。

ラブロフの韓国入りと時間を合わせて、3月23日には、習近平は北朝鮮の金正恩と口頭親書を交換している。習近平は金正恩に「両国人民に立派な生活を与える用意がある」と北に対する経済的支援を示唆し、金正恩は習近平に「敵対勢力の挑戦に対して両国の協力を強化したい」と「仲間」としてのエールを送っている。

これは即ち、先ずは中露朝で蜜月関係を強化し、朝鮮半島で韓国だけが孤立している危険さを韓国に身に染みて実感してもらい、一人韓国だけがアメリカ側に付いているのは安全保障上も危ないと思わせるのが狙いだろう。

北朝鮮のミサイル発射

中国は北朝鮮がミサイルや核実験などで暴走するのを嫌っているが、無難な「通常の軍事訓練的な範囲内」のミサイル発射ならば、このタイミングでやってくれるのは、大いに歓迎だろう。

日本では専ら、「バイデン政権の出方を見極めてから、どうするかを北は決めているのだ」といった傾向の分析が多いが、背後にいる中国の動きを見逃さない方がいい。

文在寅の「右を見たり、左を見たり」という風見鶏外交はみっともないが、日本は北を非難したり「アメリカとともになら、中国を名指しで批判する」という段階までようやく来てはいるものの、習近平の国賓来日をまだ「中止する」とは言えないお方が政府与党にはおられる。

菅政権も「そのお方」が背後にいての政権のようなので、「右を見たり、左を見たり」外交は基軸にあるように思われてならない。

情けないではないか。

いや、情けないだけでなく、これはもう「危険な領域にある」と危惧するのである。

※本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載です。

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版予定)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中