ブラジル大統領選、収賄罪が無効となったルラ氏再出馬の可能性で左右両極激突か
ブラジル連邦最高裁は8日、左派のルラ元大統領に対する収賄罪などに基づく有罪判決を取り消す判断を下した。写真は2020年11月、サンベルナルド・ド・カンポで撮影(2021年 ロイター/Amanda Perobelli)
ブラジル連邦最高裁は8日、左派のルラ元大統領に対する収賄罪などに基づく有罪判決を取り消す判断を下した。これによってルラ氏は政治的な権利を回復。初めて大統領選に出馬した1989年から30年余りの時を隔てて、2022年の次回大統領選に再出馬できる態勢が整ったように見える。
元労組リーダーのルラ氏の政治生命が不死鳥のようによみがえったことで、来年の大統領選は既視感もある構図になろうとしている。つまり左派ルラ氏と、現職で右翼のボルソナロ氏が対決し、有権者は左右両極の政治家のどちらかを選ぶしかなくなる状況だ。
ダルマ・ポリティカル・リスク・アンド・ストラテジー(ブラジリア)の創設者、クレマル・デ・ソウザ氏は「選挙の全体像を変えてしまう出来事だ。まだ、ほんの序盤戦なのは確かだが、これで、より穏健な中道志向の候補は勢いが削がれる」と指摘する。
それはボルソナロ氏にとって、おあつらえ向きの展開なのも間違いない。
18年の選挙で元軍人のボルソナロ氏は、ルラ氏と後継者のルセフ氏が03年から16年まで率いた労働党政権の「負の遺産」を「根絶」すると約束して当選を果たした。当時のボルソナロ氏の主張は単純で、怒りに満ちた内容だったが、絶大な効果を発揮した。
左派について、ブラジルをベネズエラのような破滅に向けて一直線に進ませようとしていると批判。中央政界は骨の髄まで腐敗しているとも糾弾した。既存の大政党とつながりのない自分のような、本音をさらけ出す右翼の部外者こそがブラジルに必要だと訴え、有権者の心をつかんだ。
もっとも米国で「(首都・ワシントンの)ヘドロをかき出す(drain the swamp)」と口にして当選したトランプ前大統領が、再選に失敗したことでも分かることがある。そのようにうそぶく当人が任期中、まさに腐敗の中心にいた場合、再選されるのは難しいということだ。
問われる現職の実績
ブラジルは、現在も苦しみ続けている。新型コロナウイルス感染症の死者は25万人に上り、経済はボルソナロ氏の大統領着任時よりも悪化。汚職一掃の取り組みは挫折している。18年のように、国民の怒りの矛先が、今回も労働党に向くかどうかは分からない。
また、たとえボルソナロ氏が、過去の左派政権の間違いを再び攻撃するチャンスに飛びつくとしても、同氏自身が大統領としての仕事ぶりを有権者から審判されるのは避けられない。