過去最悪の治安情勢で、祖国アフガニスタンを捨てる人たち
Fleeing Afghanistan Forever
「近所にロケット弾が落ちてきて、子供たちを抱えて地下室に逃げ込んだ」と、ジャラリは振り返る。「あらゆる場所が前線だと思い知らされた。自宅の窓辺にいても、家族の命が直接脅かされることになりかねない」
タリバンの悪夢再び
ジャラリは安定した職と庭付きの大きな家、愛車のベンツを手放してトルコに移り住むことにした。「全てを置き去りにして、仕事も知人もなく、言葉も知らない外国へ行く。私の魂は打ち砕かれた」
この数カ月間、ジャラリと同じく、大勢のアフガニスタン人がカブールを後にしている。多くはジャーナリストや政府職員、人権活動家たち。つまり、アメリカが過去20年間アフガニスタン再生のために育成資金を投じてきた、教育水準の高い中間層だ。
彼らが快適な生活を送っていたカブールは、あまりに危険な場所になった。「2001年以降で最も暗い状況だ」と、アフガニスタン独立人権委員会のシャハルザド・アクバル委員長は語る。
暴力が激化したのは、タリバンとアフガニスタン政府の和平交渉が1カ月以上行き詰まっていた期間だ。だがトランプ前米政権とタリバンが昨年の和平合意で、アフガニスタンに残る米軍兵士約2500人の完全撤収期限と定めた5月1日が迫るなか、両者は2月22日に交渉を再開した。
もっとも、バイデン米政権は超党派の諮問機関が取りまとめた報告書の提言を受け、完全撤収の期限を延長する方向に傾いているようだ。いずれにしても、アフガニスタンの今後の見通しは暗い。
タリバンは現在、国土の約半分を実効支配している。駐留米軍が期限どおりに完全撤収しなければ、暴力がさらに増加するとみる向きは多い。その対象には、外国人も含まれる。タリバンはNATOに宛てた声明で「占領と戦争の継続はあなたたちの利益にも、双方の市民の利益にもならない」と述べている。
一方、駐留米軍の完全撤収にもリスクが伴う。タリバンと政府が和平合意に達する前に米軍がいなくなれば、暴力による政権奪取や軍閥主義への転落が起こるのではないかと多くの国民は懸念する。内戦下でタリバンが台頭した92~96年当時が再現され、米軍侵攻以前に後戻りすることにもなりかねない。