最新記事

クジラ

クジラの歌を地殻構造の調査・地震研究に活用する方法が開発される

2021年2月19日(金)18時00分
松岡由希子

クジラの「歌」が海底下の地殻構造の調査に活用できる可能性...... Science, 2021

<米オレゴン州立大学の研究によって、ナガスクジラの「歌」が海底下の地殻構造の調査に活用できる可能性があることが明らかとなった......>

極地などを除いて世界中の海に生息するナガスクジラは、海中を移動しながら低周波で鳴き、その鳴音は広範囲にわたって届く。このほど、ナガスクジラの「歌」が海底下の地殻構造の調査に活用できる可能性があることが明らかとなった。

その概念実証(PoC)の成果は、2021年2月12日、学術雑誌「サイエンス」で発表されている。

クジラの歌は海面と海底との間で跳ね返り、地震波として海底に伝わる

海底下の地殻構造の調査では、海上の船舶からエアガンで人工的に音波を発振し、音波が地殻を通して伝播して、海底に設置した海底地震計(OBS)に跳ね返ってくるまでの速度を計測するのが一般的だ。海底化の地殻の調査は、地震や津波につながる地震断層を調べることにつながる。

しかし、エアガンを用いた既存の調査手法は費用や手間がかかるうえ、エアガンの衝撃音がクジラやイルカなどの海洋哺乳類に影響を及ぼすおそれがある。

米オレゴン州立大学(OSU)の研究チームは、オレゴン州太平洋沿岸ブランコ岬から約100マイル(約161キロ)沖のブランコ・トランスフォーム断層に沿って海底地震計54個を配置し、地震の調査観測を行っていた際、ナガスクジラが鳴くたびに、海底地震計に強い信号が現れることに気づいた。

海中に響くナガスクジラの歌は大型船と同等の轟音で、海底地震計に記録されたもののなかには、10時間以上続くものもあった。

クジラの歌は海面と海底との間で跳ね返り、そのエネルギーの一部が地震波として海底に伝わる。この地震波は海洋地殻を通過し、海底堆積物やその下の玄武岩層、さらにその下の斑糲岩質の下部地殻で反射したり、屈折する。

これまで調査しづらい海域でも海洋地殻の調査に活用できる

研究チームは、3カ所の海底地震計で記録した計6回分のクジラの歌を分析。クジラの位置を特定するとともに、クジラの歌からの振動を用いて地殻層を図化することに成功した。また、クジラの歌の後に現れる信号をもとに算出した値と他の調査手法による値が一致することも確認されている。

クジラの歌は、現時点では既存の調査手法に比べて精度が劣るものの、海洋哺乳類への害が少なく、既存の調査手法を採用しづらい海域でも海洋地殻の調査に活用できる点で期待が寄せられている。

研究チームでは、機械学習(ML)を用いてクジラの歌の特定やその周辺の図化を自動化させるなど、さらなる研究をすすめる方針だ。


地震計によって検出されたナガスクジラの鳴き声。遠方の地震の鳴き声が検出されたとき、クジラは呼びかけをやめた。 2010年11月12日


TED-Ed なぜクジラは歌うのか?-ステファニー・サーデリス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中