最新記事

ポピュリズム

トランプの敗北が世界的に見て「異例」だった理由

RARE DEFEAT FOR AUTOCRATS

2021年2月18日(木)06時30分
ハビエル・コラレス(米アマースト大学教授、政治学者)

トランプは大衆の怒りをあおり、権力基盤を固めてきた(米大統領退任を控えた2021年1月12日) Carlos Barria-File Photo- REUTERS

<米民主党は政権交代に成功したが、世界中、ポピュリスト政権を野党が選挙で蹴落とした例はごくわずか。なぜ勝てたのか。選挙戦で最も重要だったのは「過激に走らない程度の大胆さ」だった>

(2月16日発売の本誌「ポピュリズム2.0」特集より)

独善的なポピュリストを選挙で追い落とすのは楽じゃない。先の米大統領選に関する多くの論評には、この点への言及が欠けていた。

世界中を見渡しても、独善と独断ゆえに大衆の支持を勝ち得た(つまり一度は選挙に勝った)指導者を、次の選挙で野党陣営が蹴落とした例はごくわずかだ。
20210223issue_cover200.jpg
こういう人物は規範を破り、大衆の怒りをあおり、良識的なやり方を無視することで支持者を熱狂させ、権力基盤を固める。

いい例が中南米諸国で、この手の人物が長く権力を掌握してきた。1980年代以降に選挙で政権を追われたのは2人だけだ。ニカラグアのダニエル・オルテガ(1990年)とドミニカ共和国のイポリト・メヒーア(2004年)。それ以外の独裁者は、選挙に勝っても別な理由で退任を強いられた。

magSR20210218raredefeat-3.jpg

軍の圧力を受け辞任したモラレス REUTERS

ボリビアのエボ・モラレスは2019年に軍の圧力で逃げ出し、ペルーのアルベルト・フジモリは2000年に自身への批判の高まりを受け日本に事実上の亡命。コロンビアのアルバロ・ウリベは2010年に憲法の規定で大統領選への再出馬を阻まれた。

こうして見ると、昨年の米大統領選で民主党が政権交代に成功したのは、世界的に見ても異例なことだった。

しかしアメリカの特殊事情はさておいても、これだけは言える。党の団結と有権者の動員、そして過激に走らない程度の大胆さがあれば、私たちは危険なポピュリズムの支配に選挙で勝てる。

ただし、民主的な諸制度が独善的ポピュリズムに勝ったと思うのは間違いだ。もちろん、トランプ政権の成立後もアメリカの司法制度や社会、報道機関が独立を維持し、大統領の権力乱用を抑制するのに役立ったのは事実。しかしトランプ政権下で、これらの民主的諸制度が力をそがれたのもまた事実だ。

だからこそ大勢の国民がトランプの主張を受け入れた。そしてトランプ自身(そして共和党議員の多く)が今も、あの選挙は「盗まれた」という主張を下ろしていないところを見ると、トランプ派は今後も一定の影響力を保ち続けるとみたほうがよさそうだ。

magSR20210218raredefeat-4.jpg

市民からの批判を受け任期途中で退任したフジモリ DAVID MERCADO-REUTERS

大事なのは反対勢力の団結

言い換えれば、独立した司法機関や市民社会、報道などの民主的な制度だけではトランプを、そしてトランプ主義を打ち負かすのは無理だった。選挙で勝つには他の手助けが必要だった。ここに、独善的ポピュリストと戦う他の諸国でも役立つ教訓がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防

ワールド

アングル:トランプ氏のカナダ併合発言は「陽動作戦」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 10
    ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 9
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 10
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中