トランプは生き延び、極右思想は世界に拡大し続けている
FAR-RIGHT EXTREMISM IS A GLOBAL PROBLEM
大統領選を目前に控えミシガン州のオークランド郡国際空港で開かれたトランプの支持集会。マスクなしの参加者も多かった JOHN MOORE/GETTY IMAGES
<アメリカやノルウェー、ニュージーランドでテロを起こし、ポピュリスト政治家に影響を与えて一般的な政治思想になった。極右イデオロギーはもはや特定の国の内政問題ではない。この脅威とどう闘うか>
(2月16日発売の本誌「ポピュリズム2.0」特集より)
ブラジルからアメリカ、ハンガリー、そしてニュージーランドに至るまで、極右思想とそれを信奉するグループは民主主義社会の深刻な脅威となっている。
アメリカのドナルド・トランプ前大統領が一定の支持を今も得ていること自体、極右の脅威が世界で拡大し続けていることの証左だ。
ニュージーランドのクライストチャーチでは2019年3月、極右の男がモスク(イスラム礼拝所)を標的に連続銃乱射事件を起こし、50人以上が死亡した。事件を受けてジャシンダ・アーダーン首相はこう述べた。
「分断とヘイトの思想や言葉は過去数十年間も間違いなく存在していた。だが、広がりの形や組織拡大の手段がこれまでとは異なる」
もし社会にできた亀裂を埋め、平等や法による統治、いかなる人も分け隔てなく受け入れる市民社会、人権尊重という目標に近づく望みがあるならば、アメリカは極右主義の広がりと闘うために他の国々や国際機関・組織と手を組むべきだ。
アメリカの中枢を襲った同時多発テロと、それに続く「グローバルな対テロ戦争」(と、アメリカの指導者たちは形容した)から20年近くを経た今、世界は新たな脅威に直面している。
2000年代から10年代にかけて、国際社会がアルカイダやIS(イスラム国)といった、特殊な解釈の「イスラム教」を信奉しテロを正当化する集団に気を取られている間に、極右主義は世界中で勢力を伸ばしていた。
ソーシャルメディアやインターネットの会議室は、離れた場所にいる人々が考えを共有し、つながる重要な手段を提供した。
ヨーロッパの多くの地域において、右翼のイデオロギーやグループは決して目新しいものではない。
だが2010年代に極右勢力が急拡大した背景には、イスラム諸国からの移民の増加やEU域内での人の移動の増加、そしてその反動としてポピュリスト政治家たちが極右思想を発信し、それが市民権を得たことがあった。
ノルウェーでは2011年7月、極右思想を信奉するアンネシュ・ブレイビクがオスロなどで連続テロ事件を起こし、77人が死亡した。ブレイビクは犯行声明の中で、イスラム教徒の支配と多元文化主義からヨーロッパを守る必要があると主張した。
この事件を受けてノルウェーは法改正を行い、テロリスト犯罪の成立要件を変更。また、個人の国境を越えた活動を他の国々で監視できるよう、犯罪捜査で得られた指紋情報をアメリカやEUと共有することに同意した。
2016年にはヘイトスピーチ撲滅に向けた国を挙げてのキャンペーンが始まった。社会ぐるみでの取り組みにより極右主義やヘイトスピーチの脅威と闘うという、ノルウェーにとって重要な価値観の定着に一般市民も積極的に関わることとなった。