最新記事

ポピュリズム

トランプは生き延び、極右思想は世界に拡大し続けている

FAR-RIGHT EXTREMISM IS A GLOBAL PROBLEM

2021年2月16日(火)11時25分
ヘザー・アシュビー(安全保障・外交専門家)

問題の根と迅速に向き合う

アメリカでは2015年6月、サウスカロライナ州の教会が襲撃され、9人の黒人が射殺される事件が起きた。

犯人はブレイビクと同じように、他の民族集団から白人を守る必要があると考えていた。彼はまた、白人が「迫害」されている現状に抗する手段として白人の「偉大な過去」にこだわる極右思想を信奉していた。

ノルウェーと違ってアメリカでは、国を挙げての対応は行われなかった。それでも地域で進められた対話促進や新たな対策は、連邦レベルの対策のヒントになるものだ。

サウスカロライナ州では住民も人権活動家も政治家も学者も、同州の人種差別の長い歴史に向き合わざるを得なくなった。人権活動家とサウスカロライナ大学は共同で、地元のコミュニティーが人種の違いを超えた連帯と関係を築くことにより、人種差別問題や州の歴史と向き合うのを支援する組織を立ち上げた。

magSR20210216globalproblem-2.jpg

2019年のモスク襲撃事件の犠牲者追悼に訪れたニュージーランドのアーダーン首相(右) EDGAR SU-REUTERS

冒頭で触れた2019年のニュージーランドの事件は、極右思想がいかに世界各地で勢力を伸ばしているかを強く印象付けた。この事件の犯人もブレイビクと同様に、移民やイスラム教徒といったさまざまな脅威から、ヨーロッパ系の白人を守るという主張を展開していた。

ニュージーランド政府は迅速に極右対策に動いた。事件で使われた半自動小銃などを禁止する法改正を行うとともに、国内のイスラム教徒コミュニティーを支持する姿勢を明確に打ち出した。

またフランス政府やIT企業と協力し、国内法や業界の基準、人権に関する国際法に準拠しながら、ソーシャルメディアからテロや暴力的な過激主義のコンテンツを根絶する方策を探った。

事件は、ニュージーランドという国にとって大切な価値観や、国内の多様な社会集団をいかに扱うべきかをめぐる、国を挙げての問い掛けにもつながった。

昨年12月に発表された事件の調査報告書では、当局が極右の脅威をきちんと追えていなかったことや、イスラム教徒らが受けてきたヘイトや差別が明らかになった。報告書ではさらに、少数派のコミュニティーへの関与を強める取り組みや、テロ対策を担当する治安当局の再編といった対策が提言された。

だが、極右思想の広がりを示したのはテロ事件だけではない。2000年代を通じて、極右思想は一部の政党に広がり、政治家に影響を与えるなかで一般的な政治思想になっていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中