米中関係は「多次元方程式」に、日本外交のサバイバル戦略は?
JAPAN’S SURVIVAL PLAN
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安倍外交も菅外交も目指すべきところは同じ KIYOSHI OTA-POOL-REUTERS
<バイデン政権発足で多次元かつ重層的になる米中関係──菅政権が生き残るためにすべきことは両国間のバランス取りではない>
(本誌「バイデンvs中国」特集より)
中国がアメリカの「戦略的競争相手」の筆頭になって久しい。されど、バイデン新政権の対中政策に関する識者の見方は割れている。オバマ政権時代の苦い記憶からか、ジョー・バイデン新大統領は「中国に甘い」とみる向きもあるが、ちまたでは「米中の対立基調はトランプ政権時代と変わらない」とする声のほうが多いようだ。もちろん、こうした分析は一般論としては正しいのだが、実態はそれほど単純ではない。
対中「けんか腰」一辺倒だったトランプ政権時代とは異なり、バイデン政権の対中外交はより多次元かつ重層的である。トランプ時代の安全保障、経済・貿易に加え、協議の対象が人権や地球温暖化などにも拡大するからだ。さらにバイデン外交は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」から、伝統的な「同盟国を重視する国際協調型」に回帰しつつある。
戦略的に見れば、米外交の焦点が「西から東へ」移るのは不可避であり、バイデン外交の優先順位もアジア・太平洋、欧州、中東となるはずだ。他方、従来の経緯もあり、アメリカの欧州・中東への関与は簡単には減らせない。しかも、バイデン自身の経験や、大西洋同盟重視の傾向などに鑑みれば、短期的には上述の優先順位が逆転する可能性も十分覚悟すべきである。
バイデン外交の最大の特徴は「内政と外交の一体化」だ。同政権関係者は「効果的な外交政策のためには国内中間層の信頼回復が不可欠」で、「中国と競争する」ためにはまず「国内経済の再活性化が必要」と主張している。バイデン時代もトランプ時代とは別の形で、アメリカの「内向き傾向」が続く可能性は高い。同盟国にとっては要注意だ。
一方、習近平(シー・チンピン)の長期政権が確実視される中国は米中の「覇権争い」に本気で勝利するつもりだろう。であれば、近い将来米中関係が劇的に改善する見込みはなく、貿易・安全保障・人権などの分野で対立は長期間続くと覚悟しているはずだ。当面は新政権との仕切り直しに全力を注ぐだろうが、アメリカに対し戦略的譲歩を行う可能性は低い。
既に中国は米側の懸念表明にもかかわらず、バイデン政権発足直前に欧州との投資協定締結で合意するなど、欧米離間を画策している。中国にはコロナ禍でも成長・拡大を続ける巨大な経済力と軍事力がある。習政権はこれを背景に、バイデン政権の人権外交を警戒しつつも、「温暖化問題」などでアメリカとの政治的取引を模索する可能性が高い。この点も同盟国にとっては要注意だ。