最新記事

米政治

トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる

ACCOUNTABILITY OR UNITY

2021年1月27日(水)18時15分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

弾劾がトランプを英雄にする

アクシオス社とイプソス社が実施した世論調査によると、議事堂が襲撃された後も共和党支持者の約半数が、さらに「トランプ共和党員」を自任する人の96%が、トランプは党をよりよくしたと信じている。そして彼らの半分以上が、2024年の再出馬を望んでいる。

「今後4年間は、あまり変化はないだろう」と、反トランプの共和党員らが結成した政治団体「リンカーン・プロジェクト」のアドバイザー、ジェフ・ティンマーは言う。

「トランプ支持者は今も党内の組織を支配し、カネを牛耳っている。トランプは自由の身として、影の大統領を名乗るだろう。再出馬を公言するかどうかにかかわらず、2024年の命運は彼の手の中にある」

1月6日の襲撃の後に、トランプをついに否定した共和党議員もいるが、大きな違いはないとティンマーは言う。多くの人が大統領の振る舞いを非難したが、最終的に弾劾に賛成した共和党下院議員は10人だけだった。

その1人で共和党下院ナンバー3のリズ・チェイニー議員に対し、党内で役職の辞任を求める圧力が高まっている。

「共和党内のエスタブリッシュメントが突然、自らの優位を主張しだすことはないだろう」と、ティンマーは言う。「彼らは支配的ではない。力をそがれている。共和党は当面、トランプが望むような形になるだろう」

効果的な変化は、共和党の外部からではなく内部から生じる必要があると、米バンダービルト大学のロバート・タリッセ教授(哲学)は言う。

「国を癒やし、政治の深い亀裂を修復する責任が、全てバイデンとその政権にあるかのような考え方はできない。真の腐敗は共和党の中で起きている。共和党員は、行動を起こして自分たちの役割を認識しなければならない」

だからこそ、非営利団体「南部貧困法律センター」のマーガレット・ホアン会長兼CEOらは、バイデンがトランプ支持者に歩み寄り過ぎるのではなく、人種間の平等などの経済的・社会的義務について包括的なアジェンダを推進しながら、「和解の少し先に進む」ことを期待している。

バイデンが自分に反対したアメリカ人に手を差し伸べる一方で、自分を選んだアメリカ人のことを忘れないでほしい、と。

トランプやトランプ政権関係者の捜査について、バイデンはガーランド新司法長官に干渉しないだろう。ただし、白人至上主義者の監視については、トランプ政権の司法省は優先順位を下げていたが、バイデンは監視の強化を望んでいる。この問題に近い複数の人物はそう語る。

メリーランド大学のクルグランスキーは、そうした対処は必要だが、下手にやれば分断をあおりかねないと懸念する。

トランプのメッセージにすがりついた白人は、社会の劇的な変化──雇用を消滅させる新しいテクノロジー、進む多民族化、ジェンダーや性的指向を取り巻く社会道徳の変化──が「自分たちの重要性と威厳と敬意を奪っていく」ことを恐れていた。トランプのメッセージを受け入れる機は熟していたのだ。

「大統領を弾劾して罷免したり、退任後に訴追したりすることで、意図せぬ結果が起こることを考慮しなければならない。苦しみを増大させ、トランプが主導してきたポピュリズム運動を強固なものにし、一本化するかもしれない」と、クルグランスキーは警告する。

「トランプを英雄として、殉教者として、永遠に記憶されるアイコンのように見なす人も出てくるだろう。彼の苦難が、戦い続けるためのスローガンになる」

<2021年2月2日号「バイデン2つの戦略」特集より>

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中