最新記事

米政治

トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる

ACCOUNTABILITY OR UNITY

2021年1月27日(水)18時15分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

伝家の宝刀にならないワケ

議事堂の襲撃以降、バイデンがトランプに恩赦を与えるかどうか真剣に論じる専門家はほとんどいなくなったが、ジェームズ・コミー元FBI長官は数少ない例外の1人だ。

トランプが再び弾劾訴追された翌日、コミーは英BBCに、トランプの恩赦は「国を癒やす一環として」「少なくとも検討はするべき」だと語った。これに対しソーシャルメディアでは激しい反発が起こり、さながらバイデンがコミーの助言を受け入れた場合の予告編となった。

バイデンがトランプを恩赦することがなさそうな理由は、さらに2つある。

まず、連邦最高裁の判例によると、トランプが恩赦を受けるためには、自身の法的責任を受け入れなければならないと考えられる。そして、恩赦の範囲は連邦レベルの犯罪容疑に限られる。

トランプは大統領時代および就任前の数え切れないスキャンダルのいずれについても、いかなる責任も認めていない。さらに、連邦レベルの追及から解放されても、州や市のレベルで問われる責任は対象外だ。トランプはビジネスや税務申告に関する問題で、ニューヨーク州や市当局の調査を受けている。

また、トランプは1月2日にジョージア州務長官に電話をかけ、大統領選で同州の結果を覆すために必要な票数を具体的に挙げて、票を「見つける」ように求めた。その行為の合法性について調べるかどうか、同州フルトン郡の地方検事が検討している。

「バイデンが恩赦の対象を広げ、トランプがそれを受け入れた上であらゆる責任を否定し、バイデンを悩ませ続けるのはあり得ない」と、米デューケーン大学のケン・ゴームリー学長は言う。

憲法学者のゴームリーは、フォード元大統領にニクソンへの恩赦についてインタビューしたことがある。「民主党支持者を確実に怒らせる劇的な手段を、バイデンが取る利点は何もない」

恩赦の有無にかかわらず、トランプが「ニューヨークで抱える問題を考えれば、人生の残りは法廷で過ごすことになるだろう」と、米クレアモント・マッケンナ大学のジョン・ピットニー政治学教授は言う。

彼は今回の大統領選で初めて民主党に投票した。「民主党陣営の野心的な検察官は誰もが、彼を捕まえる方法を何かしら見つけようとするだろう」

もっとも、トランプが法の泥沼で身動きが取れなくなったとしても、バイデンがトランプ主義者をどのように扱うかという、より大きな問題の解決にはつながらないだろう。この国の根深い分断と激しい感情を考えれば、バイデンが彼らを取り込むという筋書きは現実的ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務

ワールド

カタール空爆でイスラエル非難相次ぐ、国連人権理事会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中