トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる
ACCOUNTABILITY OR UNITY
伝家の宝刀にならないワケ
議事堂の襲撃以降、バイデンがトランプに恩赦を与えるかどうか真剣に論じる専門家はほとんどいなくなったが、ジェームズ・コミー元FBI長官は数少ない例外の1人だ。
トランプが再び弾劾訴追された翌日、コミーは英BBCに、トランプの恩赦は「国を癒やす一環として」「少なくとも検討はするべき」だと語った。これに対しソーシャルメディアでは激しい反発が起こり、さながらバイデンがコミーの助言を受け入れた場合の予告編となった。
バイデンがトランプを恩赦することがなさそうな理由は、さらに2つある。
まず、連邦最高裁の判例によると、トランプが恩赦を受けるためには、自身の法的責任を受け入れなければならないと考えられる。そして、恩赦の範囲は連邦レベルの犯罪容疑に限られる。
トランプは大統領時代および就任前の数え切れないスキャンダルのいずれについても、いかなる責任も認めていない。さらに、連邦レベルの追及から解放されても、州や市のレベルで問われる責任は対象外だ。トランプはビジネスや税務申告に関する問題で、ニューヨーク州や市当局の調査を受けている。
また、トランプは1月2日にジョージア州務長官に電話をかけ、大統領選で同州の結果を覆すために必要な票数を具体的に挙げて、票を「見つける」ように求めた。その行為の合法性について調べるかどうか、同州フルトン郡の地方検事が検討している。
「バイデンが恩赦の対象を広げ、トランプがそれを受け入れた上であらゆる責任を否定し、バイデンを悩ませ続けるのはあり得ない」と、米デューケーン大学のケン・ゴームリー学長は言う。
憲法学者のゴームリーは、フォード元大統領にニクソンへの恩赦についてインタビューしたことがある。「民主党支持者を確実に怒らせる劇的な手段を、バイデンが取る利点は何もない」
恩赦の有無にかかわらず、トランプが「ニューヨークで抱える問題を考えれば、人生の残りは法廷で過ごすことになるだろう」と、米クレアモント・マッケンナ大学のジョン・ピットニー政治学教授は言う。
彼は今回の大統領選で初めて民主党に投票した。「民主党陣営の野心的な検察官は誰もが、彼を捕まえる方法を何かしら見つけようとするだろう」
もっとも、トランプが法の泥沼で身動きが取れなくなったとしても、バイデンがトランプ主義者をどのように扱うかという、より大きな問題の解決にはつながらないだろう。この国の根深い分断と激しい感情を考えれば、バイデンが彼らを取り込むという筋書きは現実的ではない。