最新記事

人類

ネアンデルタール人は冬眠していた? 

2021年1月5日(火)14時50分
松丸さとみ

クロアチアのクラピナ・ネアンデルタール博物館での展示...... REUTERS/Nikola Solic

<スペイン北部の遺跡で見つかった化石骨の損傷状態を調べたところ、ネアンデルタール人が厳しい冬をやり過ごすために冬眠していた可能性が浮上した...... >

40万年以上前の化石骨に冬眠の痕跡らしきもの

現生人類と同種とされるネアンデルタール人は、厳しい冬をやり過ごすために冬眠していたのかもしれない──このほど行われた遺跡調査から、こんな可能性が浮上している。英ガーディアン紙などが報じた。

化石人類ネアンデルタール人は、数十万年前〜3万5000年前まで生存していたと考えられている。

古人類学専門の学術誌L'anthropologieに発表された論文によると、スペイン北部のアタプエルカにある有名な遺跡シマ・デ・ロス・ウエソス(スペイン語で「骨の穴」を意味する)という洞窟で見つかった化石骨の損傷状態を調べたところ、洞窟に残されていたクマなど冬眠する動物の状態と類似していたという。

ガーディアンによると、シマ・デ・ロス・ウエソスは欧州で人類がどのように進化したかを示す、古生物学において非常に重要な遺跡だ。この洞窟は共同墓地と見られており、化石骨が多く見つかっている。これらの化石骨は40万年以上前のもので、ネアンデルタール人もしくはその祖先と考えられている。

食糧のない厳しい寒さを冬眠で越冬?

シマ・デ・ロス・ウエソスで見つかった化石骨を調査し論文を執筆したのは、古人類学者のフアン・ルイス・アルスアガ博士と、ギリシャにあるトラキア・デモクリトス大学のアントニス・バルチオカス教授だ。博士らによると、化石骨には毎年数カ月の間、成長が阻害されたような痕跡があった。これは、厳しい寒さで食糧が手に入らない状況の中、体脂肪の蓄えだけで生き延びた代謝状態を示しているのだという。その冬眠のような状態が、骨の成長の阻害という形で記録されているというのだ。

ガーディアンによると、アルスアガ博士らは「サイエンス・フィクションみたいな話に聞こえるかもしれない」としつつ、ショウガラゴやキツネザルといった霊長類も冬眠すると指摘。これはつまり、ヒトを含む多くの哺乳類動物に、代謝を低下させて冬眠状態になる機能が遺伝的・生理学的にあることを示唆していると述べている。

アルスアガ博士らはまた、反論についても検証した。例えば、イヌイット(アラスカやカナダ北部に居住する民族)やサーミ人(スカンジナビア半島北部ラップランドなどに居住する民族)など、寒さの厳しい地域に住む現生人類は冬眠しないのに、なぜシマ・デ・ロス・ウエソスの人たちは冬眠したのか、というものだ。

博士らは、厳しい冬季でも脂肪の多い魚やトナカイの脂肪が手に入るイヌイットやサーミの人たちは、十分な栄養を取れるというのが理由だろうと考えている。一方で、数十万年前のイベリア半島の乾燥した気候では、シマ・デ・ロス・ウエソスの遺跡がある地域で冬季に十分な食糧を確保することはできなかっただろうと述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=4日続伸、米中貿易摩擦の緩和期待で 

ビジネス

米中、関税協議巡り主張に食い違い 不確実性高まる

ワールド

ウクライナ、鉱物資源協定まだ署名せず トランプ氏「

ビジネス

中国人民銀総裁、米の「関税の乱用」を批判 世界金融
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中