RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠
Why India Refused to Join RCEP
FTAに参加したさまざまな経験から、インドは自立を優先するイデオロギー的立場を強化した。過去に署名した貿易協定から恩恵を受けているとはいえ、そうした合意の結果、一部RCEP加盟国相手の貿易収支が赤字になっていると加盟反対派は指摘する。
さらに反対派は、日本、韓国、ASEANとのFTAを国内製造業の衰退に結び付けている。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は最近、貿易協定が工業の空洞化につながっていると主張した。
過去の貿易協定では、政策と規制改革に加え、国内の製造業を支えるインフラを構築する努力が伴わず、協定から得られるはずの利益が限られたことは否めない。反対派の大きな不満の1つは、過去のFTAにはセーフガードの項目がなかったため、中国からインドへの輸出の流れに歯止めが利かなくなったことだ。
与党のインド人民党(BJP)と主要野党のインド国民会議派も、イデオロギー面では大きな違いがあるのに、自由市場経済への不信感は共通している。そのため、BJPが貿易協定への参加を拒んでも、最大のライバルである国民会議派から攻撃されることはほとんどない。実際、国民会議派が政権を主導した2004〜14年に締結された過去のFTAには国内に否定的な見方が多く、それが同党のRCEPに対する激しい反対につながったのかもしれない。
自由貿易そのものへの抵抗感とは別に、インドが譲歩を拒む大きな理由は少なくとも2つ考えられる。
第1に、関税障壁をいきなり撤廃すればグローバルな競争力のない多くのインド企業が打撃を被る。鉄鋼やプラスチック、銅、アルミ、紙、自動車、化学製品などインドの産業を支える業界は、RCEPからの離脱を歓迎した。
第2に、インドの政治家は大票田である農家をないがしろにできない。多くの農家は、市場を性急に開放して外国の農産物を受け入れた場合、大きな不利益を受けかねないと考えている。大規模な改革が行われれば、家族経営の小規模農家は廃業に追い込まれる恐れもある。
特に酪農業界からは反発が強い。工業化を進めて高い競争力を持つオーストラリアやニュージーランドの酪農業界との競争に不安があるためだ。
一方、インドのサービス業界はRCEPへの参加を支持するのではないかと思われがちだが、こちらも複雑だ。WTO(世界貿易機関)の2018年のデータによれば、インドはサービス輸出国としては世界8位、サービス貿易国としては9位につけており、今や立派なIT・ビジネスサービス大国だ。実際、インドのIT企業はRCEP加盟国の市場参入拡大を求めてロビー活動を行ってきた。