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太陽系を高速で移動できる「天体の高速道路」が発見される

2020年12月15日(火)18時45分
松岡由希子

太陽系の宇宙多様体のアーチのような構造を示す...... Credit: University of California San Diego

<セルビア・ベルグラード天文台らの研究チームは、観測データとシミュレーションデータの解析により、物体が太陽系を高速で移動できる「天体の高速道路(セレスティアル・アウトバーン)」を発見した...... >

物体が太陽系を高速で移動できる「天体の高速道路(セレスティアル・アウトバーン)」が発見された。このルートを活用することで、より速くより遠くに宇宙探査機を送れると期待されるほか、地球と接触するおそれのある地球近傍天体(NEO)の研究やモニタリングにも役立つとみられる。

「天体の高速道路」が、アーチ状につながって構成されている

セルビア・ベルグラード天文台や米カリフォルニア大学サンディエゴ校らの研究チームは、観測データとシミュレーションデータの解析により、この「天体の高速道路」が、「宇宙多様体」と呼ばれる目に見えない構造の内側でアーチ状につながって構成され、各惑星が独自の多様体を生成してこれをつくりあげていることを明らかにした。

一連の研究成果は、2020年11月25日に学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で発表されている。

Solar-System-Superhighway.gif


研究チームは、太陽系内の無数の軌道の数値データを収集し、既知の宇宙多様体とどのように適合しているかを計算。カオスの検出に用いられるFLI法により、宇宙多様体の存在とその全体的な構造を検出し、軌道の時間の尺度に作用する不安定性をとらえた。

宇宙探査機をより速く、より遠くへ移動させるための研究開発

「天体の高速道路」で最も顕著な例は、木星とその強い重力に関連するものだ。公転周期が20年の木星系彗星や木星と海王星の間の軌道を公転する小惑星「ケンタウルス族」は、このような多様体によって時間の尺度が制御され、その一部は木星と衝突したり、太陽系から放出されたりする。

約2000個の粒子は、多様体によって引き起こされた接近遭遇により有界な楕円軌道から非有界の双曲線軌道に遷移し、平均して38年で天王星の距離に、46年で海王星の距離に到達した。最も速いものは10年足らずで海王星に達し、そのうちの70%は100年で100AU(約150億キロメートル)を移動するという。

一連の研究成果は、宇宙探査機をより速く、より遠くへ移動させるための手段の研究開発に向けた第一歩として意義がある。

また、研究チームは、「このような宇宙多様体が地球の近くでどのように振る舞い、地球-月系で増加している人工物体や、小惑星や隕石との遭遇をどのように制御するのかについても、さらなる研究が必要だ」と指摘している。

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