最新記事

中国

中国TPP参加意欲は以前から──米政権の空白を狙ったのではない

2020年11月23日(月)20時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

またターンブル首相は大の親中派で、オーストラリア経済の中国依存度は2019年データでも貿易額の約30%が中国だ。TPPが締結された2016年代のオバマ政権としては 加盟国の中国貿易への依存度を下げ、加盟国をアメリカに近づけることに役立てようという思惑があった。

しかし経済大国のアメリカが抜ければ、次にGDP規模が大きいのは日本くらいのもの。それでは心もとないとしてオーストラリアとしては世界第二の経済規模を持つ中国に入ってもらいTPPの価値を高めようとしたのだろう。

そこで記者会見で外国人記者から「今日オーストラリアのチョーボー貿易相が中国に対して中国がTPPに加盟してTPPを救ってほしいと表明したが、中国はこのオーストラリアの申し出をどう思いますか?」と聞いたわけだ。

すると華春瑩報道官は「現在の世界の経済状況は、貿易や投資が低水準にあるため、依然として脆弱な状態にあります。 アジア太平洋地域は、今後も世界経済のエンジンとしての役割を果たし、開かれた経済を構築し、世界経済の成長に貢献していくべきです」とした上で、「先ずはRCEPの締結を優先して努力し、それが成果を収めたらTPPに対しても新たなエンジンとして注力していくつもりです」という趣旨の回答をしている。

その戦略通り、今年11月15日にはRCEPの協定に関して署名したので、次に「約束通り」TPP11に対して積極的な姿勢を表明したに過ぎない。

日本の大手メディアは、これを「米政権の空白を狙って」と解説する傾向にあるが、2017年1月時点で米大統領選の移行に関する政権の空白など存在していなかったし、今年の5月にも大統領選による米政権の空白など想定されていなかった。

TPP11 で緩和された「適用停止」事項は中国に有利

たしかにTPP11 には関税や貿易ルールに関して、RCEPよりも高い基準が要求されている。それを中国が満たすことが出来るのか、懐疑的な側面は否めない。

しかしTPPからアメリカが抜けた後は、TPPを縛っていた多くの厳しい条件が緩和され、「付属書」で少なからぬ項目が適用を停止しており、中国にとってはハードルがかなり低くなっていると中国は見ている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中