最新記事

中国

RCEP締結に習近平「高笑い」──トランプ政権の遺産

2020年11月20日(金)17時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

したがって中国にとっては【一帯一路+RCEP+BRICS】という形で、地球上のほとんどの国々とつながっており、アメリカを孤立させ、やがてアメリカを凌駕するという長期目標を達成するには、トランプ政権は最高に好ましい政権であったと、逆説的に言うことが出来るのである(10月28日付けコラム「中国はトランプ再選を願っている」参照)。

台湾統一に有利に働く台湾経済へのダメージ

見逃してならないのはRCEP締結が台湾経済に与えるダメージだ。

台湾から見れば周りのすべての国あるいはエリアの間の関税が大幅に下がる中で台湾だけが高関税のままであれば、当然のことながら台湾製品の競争力は相当に落ちることになり、RCEPはある意味、台湾に対する経済封鎖につながる。RCEPに加盟したいなら、台湾も香港・マカオ同様に「一国二制度」を採用せよという要求を北京政府は台湾に突き付けるだろう。そのことに関する論争が台湾内部でも巻き起こっている。

たとえば「東森財經新聞台」の番組をご覧になると、その様子が伝わってくる。中国語だが、画面に出て来る文字をご覧いただけば、雰囲気が伝わってくるのではないかと思う。

習近平にとっては一石二鳥どころではなく、笑いが止まらないほどの利益が舞い込んでくる計算になる。それというのもトランプが大統領でいてくれたからだ。

さて、となると、日本はRCEP協定にめでたく署名したなどと喜んでいていいのかという疑問が湧いてくる。

バイデン政権が誕生した時に、TPPかRCEPか、どちらかを選ばなければならない事態に追い込まれるかもしれない。

「自由で開かれたインド太平洋構想」を「平和で繁栄したインド太平洋」などと言い換えている場合ではないだろう。

中国は台湾統一を目指して第一列島線を確保すべく、日本の領土である尖閣諸島への挑戦を繰り返している。「甚だ遺憾だ」などと言葉だけで言っていても、中国にとっては痛くも痒くもない。

習近平に「高笑い」を許しておくわけにはいかないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「ロシアは戦争継続を望む」、条件付き

ワールド

米、プーチン氏と生産的な協議 ウクライナ紛争終結の

ワールド

米・イスラエル、ガザ住民受け入れ巡りアフリカ3カ国

ビジネス

ECBの4月据え置き支持、関税などインフレリスク=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の「トリウム」埋蔵量が最も多い国は?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 5
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 9
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 10
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中