インドネシア、人里離れた集落のキリスト教徒4人惨殺 ISとつながるイスラム系テロ組織MITの犯行
創設時のリーダー、サントソ容疑者は2016年7月に治安部隊との戦闘で殺害された。その後イシャック・イパ容疑者が実質的指導者になったとされるが、指揮系統もかつてほど明確でなく、小グループがそれぞれに独自のテロを繰り返すなど組織としてかなり追い詰められている状況ではないか、と分析されていた。
今回の襲撃事件にMITの実質的指導者であるイシャック・イパ容疑者とみられる人物が加わっていたことから、治安当局はMIT残党の中の最も中核メンバーによるテロとみて集中的な追跡作戦を進めている。
襲撃に参加したMITテロリストのものとみられる足跡、血痕が同村から続く丘陵地帯に向かって残されていたことから、治安当局は部隊、警察官・兵士を動員してその痕跡を追跡しているという。
狙われるキリスト教徒、弱体化したMIT
今回の襲撃で殺害された4人はいずれもキリスト教徒の男性で、被害者の1人の息子が殺害を逃れて警察に事件発生を通報したと地元メディアは伝えている。
同村では殺害された4人の住居以外に4軒の民家が放火されて焼失したが、村内のキリスト教会は被害を受けなかったという。同村はキリスト教徒の住民も多いことからMIT襲撃のターゲットになったとみられている。
今回の襲撃事件を受けて大半が農民である村人約750人が村を離れ、約9キロ離れた安全な場所への避難を余儀なくされていると報じられている。
同州では1990年代からキリスト教徒とイスラム教徒による対立が激化。当初は酒に酔ったキリスト教徒がイスラム教徒を刺したという些細なことが端緒だったが、その後全面的な宗教対立に発展し、1998年から2001年にかけて双方に1000人以上の犠牲者がでる深刻な事態となった。
住民同士の宗教対立はその後収束したものの、2011年以降はMITによるキリスト教徒住民への襲撃やテロ事件が頻発する状況となっている。中部スラウェシ州ポソ南西部の奥深い山間部にはテロ組織の秘密軍事訓練施設があるとされ、警察や軍による施設攻撃も何度か行われたが、そのたびに新たな拠点に施設が移設される状態も続いていた。
2016年以降は政府の方針で大規模なMIT壊滅作戦が続き、秘密訓練施設もなくなり、MITメンバーも大幅に減少、組織の弱体化が伝えられていた。
キリスト教組織が人権侵害と批判
インドネシア国内や国際社会、キリスト教団体などは今回のキリスト教徒惨殺事件を「許されないテロ行為」として厳しく批判していると同時にインドネシア政府にMITメンバーの逮捕やテロの再発防止を求める事態となっている。
殺害された4人が所属していたというインドネシア救世軍教会の関係者は地元メディアに対して「いかなる理由があるにしろ、非人間的な人権侵害行為である」と殺害テロを厳しく非難している。
放火された4件の民家には救世軍教会の同村での連絡事務所になっていた民家も含まれていたことも明らかにしている。
コロナ禍、経済不況そして宗教が絡んだテロ事件とジョコ・ウィドド政権が直面する課題はどれも重たい。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など