最新記事

米大統領選2020 アメリカの一番長い日

どん底まで落ちた米ロ関係を修復できる? ロシアがバイデン政権に寄せる期待

MOSCOW AND BIDEN

2020年11月13日(金)16時40分
アレクサンドル・ガブエフ(カーネギー国際平和財団モスクワセンター・シニアフェロー)

ロシア政府のバイデン認識は意外に複雑 ALEXEI DRUZHININ-KREMLIN-REUTERS

<「バイデン勝利はロシアにとって不利」というのが一般的な見方だが、安全保障の議論をまともに行える大統領なら米ロ関係を修復できると考える一派も政府内にはいる。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

ロシアでもアメリカ大統領選挙は国民的な関心事だ。国営テレビを主な情報源とする一般の人々は毎日のようにトークショーでこの話題を見聞きしているし、エリートたちも高級レストランや政府機関の廊下でドナルド・トランプ米大統領とジョー・バイデン前米副大統領のバトルについて好んで議論し合っている。
20201117issue_cover200.jpg
バイデンが勝つと自分たちにとって不利、というのがロシアの一般的な見方だ。2016年大統領選への干渉という不正行為の報復として、民主党政権は何よりもまずロシアに新たな経済制裁を科すと予想されているためだ。親政府派の専門家や高官、国有企業の幹部はおおむねこの見解に同意するし、上流中産階級の主な情報源である「ベル」のような独立系インターネットメディアによってもこういった見解は広められている。

ただ、ロシア政府内でアメリカ問題に携わる人々のバイデンの見方はそう単純ではない。「ロシアの飼い犬」と見なされない、安全保障の議論をまともに行える大統領なら米ロ関係を修復し、将来の関係悪化を防ぐことができる、と考える一派もいる。

もっとも、バイデンが大統領になってもロシアに十分な注意を払うことはできないかもしれない。彼とそのスタッフは国内問題に追われ、そうでなければ中国問題に集中するからだ。

しかし、民主党の新政権は軍縮体制の維持やサイバー空間における新たなルールづくりの議論には積極的だろう。主要な対ロシア政策である経済制裁の副作用や効果についてはより正確に認識するか、あるいは懐疑的にすらなるかもしれない。こういった問題は、誰が国務長官や国家安全保障問題担当補佐官などの上級職に就くか、そしてロシア政策担当の官僚の顔触れがどうなるか、によって大きく左右されるが。

米ロ関係はトランプ政権下でどん底まで落ちた。その4年間の後で、誰もトランプの再選がロシアにとって都合がいいとは思っていない。もしトランプが再選された場合、唯一の希望の兆しは2期目がもたらすであろう西側諸国のさらなる混乱と、友好国のアメリカからの深刻な離反だ。

ただパクス・アメリカーナ(アメリカの力による平和)の緩やかな終焉を「他人の不幸」と喜んでみせても、ロシア政府は本音ではトランプがホワイトハウスに居座るほうがずっと嫌なはずだ。

From Foreign Policy Magazine

<2020年11月17日号「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中