「優等生」スイスは人命より経済優先 コロナ第2波
Switzerland Is Choosing Austerity Over Life
現在のスイスでは、個人の経済的利得を重視する傾向が顕著にみられ、2012年に実施された国民投票では、最低4週間の有給休暇を2週間増やす法案に67%の国民が反対票を投じたほど。「経済に負担」という理由からだ。国民の1週間の労働時間はヨーロッパで最も長い。世論調査では、パンデミックに関する国民の一番の懸念事項は「医療崩壊」ではなく「経済への影響」だという結果で一貫している。病院はすでに新型コロナ患者を受け入れるためにがんの手術などの必要な手術を延期するまで追い詰められているにもかかわらずだ。
スイスが経済的に際立った成功をおさめ、世界の各企業にとって魅力的な場所になった理由は、このように市場自由主義や財政保守主義の傾向が強く、厳しい労働倫理があるからこそかもしれない。
そう考えれば、「スイスには2度目のロックダウンを行う余裕はない。そんな資金はない」という同国のウエリ・マウラー財務相の発言も理解できる。だがスイスの2019年の政府債務残高は、GDP比でわずか41%。1回目のロックダウンによる経済的損失や各種支援策の財源を賄うため、政府は今後220億スイスフラン(GDPの3%)相当の国債発行を迫られる見通しだが、倹約家のドイツでさえ、パンデミック対策の財源確保のためにGDPの6.4%に相当する国債の発行を決めている。
感染者と倒産が増えた
それでもマウラーは、再度のロックダウンを行えば、健康のために経済と財政を犠牲にすることになりかねないと主張する。メディアや政治家からも反論はほとんどない。財務相の仕事は財政を健全に保つことで、パンデミックと戦うことではないからだ。部分的なロックダウンを求める政党や政界幹部もいない。
だが、財布の紐は締めたままビジネスはいつも通り、という政策は、健康のためだけでなく経済のためにも良くないかもしれない。感染拡大への恐怖が忍び寄ってくるにつれ、スイス人は社交を減らしており、レストランには空席が目立つ。健康と経済の間にはどちらかを犠牲にすればもう一方はよくなるという関係は存在しない。感染数が爆発的に増える一方で、倒産する企業も増えている。
この危機にあたり、経済学者ら50人は11月2日にようやく、政府に一部ロックダウンの導入を求める公開書簡を提出した。政府はまだ尻込みをしているが、オスカー・ワイルドはかつてこう言った。「何もしないのは世界で最も難しい」
世界で最も勤勉なスイス人にとって、それはとりわけ困難なことだろう。
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