最新記事

米朝関係

「執権欲に狂った老いぼれ」バイデンを罵倒した金正恩の焦り

北朝鮮メディアはすでに昨年の時点でバイデンを罵倒していた KCNA-REUTERS

<金正恩がトランプとウマが合った理由は、北朝鮮の人権侵害を追及しなかったからだ>

米大統領選でのジョー・バイデン民主党候補の勝利を受けて、対米関係の打開をトランプ大統領との「個人的関係」に大きく依存してきた北朝鮮の金正恩党委員長は、いま何を思っているのだろうか。

北朝鮮は、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ前政権を激しく忌み嫌っていた。来年1月に発足することになるバイデン次期政権についても、強い警戒心を抱いているだろう。

北朝鮮メディアはすでに昨年の時点で、バイデン氏を罵倒している。朝鮮中央通信は「狂犬は一刻も早く棍棒で叩き殺すべき」と題した2019年11月14日付の論評で、「大統領選挙で2回も落選しても三日飢えた野良犬のように歩き回り、大統領選挙競争に熱を上げているというのだから、バイデンこそ、執権欲に狂った老いぼれ狂人である」とこき下ろした。

北朝鮮がバイデン氏を警戒する最大の理由は人権問題だろう。金正恩氏がトランプ氏とウマが合った理由は、トランプ氏が北朝鮮の人権侵害を追及しなかったからだ。

<参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

しかし、人権を重視することで知られるバイデン氏とはそうは行くまい。同氏は昨年11月11日にアイオワ州で行った演説で、金正恩氏のことを「自分の叔父の頭を吹き飛ばし、空港で兄を暗殺した」と非難した。また、バイデン陣営は選挙のためのテレビCMでトランプ氏が金正恩氏やロシアのプーチン大統領らと握手する映像を流し、彼らを「独裁者」「暴君」などと呼んだ。

前述した論評は、こうした動きに対する反撃として出されたものだ。

バイデン次期政権が北朝鮮とどのように向き合うかは今のところ不明だが、トランプ氏のように人権問題を軽んじることはないだろう。そうなれば、米朝対話は膠着するしかない。

金正恩氏にとって核兵器は、条件次第では一定の譲歩が可能な交渉カードだ。仮に、米国が北朝鮮側の要望をすべて聞き入れるなら、金正恩氏は非核化に応じるかもしれない。

しかし、恐怖政治で権力を維持する金正恩氏にとって、人権問題は体制の根幹にかかわる問題だ。人権問題の改善について、他国と交渉すること自体が不可能なのである。

その不可能な要求を非核化とともに突き付けられ、国際社会に経済制裁を解除させる道が絶えてしまうことを、金正恩氏は何よりも警戒しているはずだ。

<参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中