【香港人の今4】「政権が見たいのは、こういう自己検閲だ」38歳新聞記者
RISING LIKE A PHOENIX
新聞記者 梁嘉麗(38) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HEI
<香港の状況は絶望的に悪化している。11月23日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)らが収監された。香港人は今、何を思い、どう反抗しているのか。16人の本音と素顔を伝える(4)>
新聞記者 梁嘉麗(38)
今年8月10日、中国に批判的な日刊紙、蘋果日報(アップル・デイリー)の創業者・黎智英(ジミー・ライ)が香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕され、捜査のため警察官が本社ビルに乗り込んできた。
その時、同紙記者の梁嘉麗(シャーリー・リョン)は会社におらず、同僚のライブ中継で状況を把握するしかなかった。「警察の行動は『おとなしく言うことを聞くように』というメディア全体への警告だ」
蘋果日報は同法が施行されると、記者の安全のため記事の署名を伏せ始めた。法律の線引きが確定できないためだ。
「記事で誰かの話を引用したら、それが扇動になるのか。扇動的と弁護士に言われたら書かないのか。妥協すれば絶対安全なのか。政権が見たいのは、こういう自己検閲だ」
第一線の記者として15年も走り回ってきた。「抑圧は今に始まったことではない。メディアが中国資本に買収され、ベテラン編集者が異動させられるなど、20年間ずっと進んできた」
道のりは険しいが、真実の報道を譲らなければ希望は見える、と信じている。「ここに残り記録を続ける。最後まで......もしくは逮捕されるまで」
難民ビザの申請者 L(47)& K(40)
香港の公務員だったLと妻のKは、昨年の逃亡犯条例改正案反対デモで何度も救急ボランティアとして現場に姿を見せた。だが今年3月、6歳の息子の将来のためオーストラリア政府へ難民ビザを申請し、香港から脱出した。
2人とも香港で生まれ育ち、苦難であれリスクであれ、この街で共に乗り越えたいと願っていた。しかし、デモ隊がけがを負ったり、捕まったりしても全員を救えない無力感がストレスや苦しみになった。
「警察の仕事は市民を守ること、と子供に言えなくなった。是と非の区別を教えるすべも分からなくなって」
昨年末、各大学でのデモ隊と警察の攻防戦が世界を驚かせた。キャンパス内で負傷者の手当てをする救急隊員ボランティアまで逮捕された。こんな街はもう息子を育てるのに適していない──。
元の職業が「高技能」とも言えず、資金もないため、彼らは難民の人道支援プログラムに申請した。夫のLはすぐ仕事が見つかった。
故郷を離れて身は軽くなった。だが、心は終始、香港から離れない。「香港を立ち去ることは終わりではなく、新しい始まりだ。海外からでも香港への応援を続けたい」