3家族が全滅、孤児院も......北朝鮮「封鎖都市」で餓死続出
感染防止を名目にした都市封鎖で餓死者が出る事態となっている KCNA-REUTERS
<新型コロナの感染拡大を未然に防ぐためのはずの都市封鎖が人々を餓死に追い込んでいる状況に、住民の間には不信感が広がっている>
北朝鮮当局は先月27日から、中国との国境に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)、鐘城(チョンソン)、穏城(オンソン)に対して、封鎖令を発した。
表向きの理由は「新型コロナウイルスの流入遮断」だが、実際は、国境警備のために派遣された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)暴風軍団の兵士が、普段から自分をいじめていた副分隊長を殺害後に逃走する事件が起きたことがきっかけだ。
コロナ感染が疑われる患者が発生した両江道(リャンガンド)や慈江道(チャガンド)でも封鎖令が発せられているが、その期間は3週間。一方で、咸鏡北道の封鎖令は、事件の容疑者が検挙されていないのか、3週間を過ぎてもまだ続いているようだ。極度のモノ不足に陥り、命を落とす人も出ていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
情報筋によると、会寧と他地域と結ぶ道路が遮断され、物資が入荷しなくなったことで物価が高騰した。秋の収穫期の直後だというのに、困窮する人が続出し、ついに餓死者も発生した。今月12日の時点での餓死者は、4人家族1組と3人家族2組の合わせて10人。いずれも一家全滅だ。
<参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為>
一方、慈江道の満浦(マンポ)市は先月26から今月14日まで封鎖された。
中国との密輸に関わっていた人を中心に12人が呼吸困難の症状を見せ、市内の病院で死亡したことを受け、金正恩党委員長が下した命令によるものだ。密輸に関わった税関職員、商人10人が逮捕され、安全部(警察署)で取り調べを受けている。彼らに着せられた容疑は国家転覆罪と殺人罪。多くが無期懲役となり、密輸の首謀者は公開処刑されるだろうとのいうのがもっぱらの噂だという。
情報筋が明らかにした、慈江道の非常防疫委員会に報告された集計によると、封鎖期間中にコロナの疑いで隔離施設に収容された人が320人、症状が表れその後に死亡した人は107人に達する。
封鎖期間中、市民はいっさいの外出を禁じられた。当局は市民1人あたり1日300グラム、10日分の食糧を配給したが、3週間をしのぐにはまったく足りない。その結果、孤児を収容する育児院、初等学院では、封鎖による食糧不足で10人が餓死するという痛ましい事件も起きたという。
また封鎖により、長く厳しい冬を乗り越えるために欠かせない薪と石炭、保存食であるキムチの調達ができなかったとあって、死者がさらに増える可能性がある。
すでに市民の間では「餓死した人はもっといるはず」との噂が広まり、感染症の拡大を未然に防ぐための封鎖が、人を餓死に追い込んでいる状況に、もはや国も防疫機関も幹部も信じられないと不信感が広がっているという。
<参考記事:銭湯や民泊で...北朝鮮で「性売買」の低年齢化が深刻>
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。