最新記事

ドイツ

女性との握手拒否で帰化認定が無効になった ドイツ

2020年10月26日(月)15時30分
モーゲンスタン陽子

握手には契約が結ばれたことを象徴する、法的な意味もあるという...... MangoStar_Studio-iStock

<ドイツ帰化試験に合格したレバノン人男性が、合格証書を授与するはずだった女性公務員との握手を拒んだため、帰化申請が却下され、国籍取得が反故になったことが問題となっている...... >

2015年にドイツ帰化試験に高得点で合格したレバノン人男性が、合格証書を授与するはずだった女性公務員との握手を拒んだため、帰化申請が却下され、国籍取得が反故になった。

男性はその翌年、シュトゥットガルトの地方行政裁判所に提訴したが却下、さらに州連邦裁判所に上訴したが、今月17日ふたたび却下された。

ほぼ満点獲得も......

この40歳のレバノン人男性は、2002年にドイツに入国、ドイツ語コースと医学を修め、現在は医師として働いている。約10年前、ドイツ生まれのシリア系市民と結婚し、入国から現在までずっと合法的にドイツ国内に居住してきた。 2012年に帰化を申請し、誓約と忠誠の宣言、および基本法(Grundgesetz:いわゆる憲法)への忠誠とあらゆる形態の過激主義の拒絶に関するリーフレットに署名した。また、満点に近いポイントで帰化テストに合格していた。

ところが、証書を手渡すはずだった地区行政の責任者である女性との握手を拒んだため、帰化認定は無効となってしまった。却下の理由を説明した文書には、「性的誘惑を危惧するあまり女性との握手を拒む者は、ドイツの生活条件に適応できないことを証明している」と書かれていた。

男性は握手を拒んだ理由として、妻と、他の女性と握手はしないという約束をしていたと説明している。

握手には契約締結の意味も

ドイツでは握手は非常に大切な生活文化だ。一般企業でのミーティングのはじめと終わり、あるいは歯医者での治療のはじめと終わりなど、ありとあらゆる場面で握手をする機会がある。インフルエンザなどが流行っているときなどには「握手を控えましょう」とすることもあるが、一時的なものだ。その風習には何世紀もの歴史があり、現在パンデミックで回避傾向にあるとしても、習慣自体が立ち消えることはないと考えられている。

帰化するためには、申請者は国籍法10条に従って、ドイツの生活条件に適応できることを証明する必要がある。握手はドイツの社会的、文化的生活に深く根ざしており、性別に拘らず一般的な行為だ。これを拒絶したことで、男性は自らドイツ社会に適応できない印象を与えてしまった。

法的専門誌によると、却下の文書ではさらに、握手には契約が結ばれたことを象徴する、法的な意味もあると指摘している。このことから、女性公務員との握手を拒否したこの移民男性は、ドイツ連邦基本法に明記された平等原理に違反しているという。

帰化申請者が性的な理由で、つまり性的誘惑および不道徳な行動と見なされるという理由で握手を拒否する場合、これは性別や人種間の平等を定めたドイツ基本法第3条(2)および(3) に反し、申請者はドイツの生活条件に適合できないとみなされる。

このレバノン人男性は、女性に限らず男性でも握手はしなかったと述べているが、説得力はなかったようだ。

Muslim doctor denied German citizenship after refusing to shake woman's hand (DEBATE)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中