最新記事

2020米大統領選

米富裕層、バイデン大統領誕生による増税恐れ遺産相続計画を変更

2020年10月18日(日)12時08分

米国の富裕層は、大統領選で民主党のバイデン前副大統領(写真)が勝利して増税する可能性を恐れ、年末までに遺産相続計画を変更しようと奔走している。写真はアリゾナ州フェニックスで8日撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

米国の富裕層は、大統領選で民主党のバイデン前副大統領が勝利して増税する可能性を恐れ、年末までに遺産相続計画を変更しようと奔走している。

最も懸念しているのは、民主党が大統領選を制し、上下両院でも過半数を確保する「ブルー・ウェーブ」となるケースだ。この場合、バイデン氏は抜本的な税制改革を提案し、議会を通過させる力を得る。

富裕層が特に神経をとがらせているのは、1158万ドルの相続税非課税枠が2025年の期限切れ前に引き下げられる事態だ。

民主党の綱領によると、同党は相続税を「歴史上の標準」に引き上げる方針。ファイナンシャルアドバイザー(FA)によれば、相続税の非課税枠は549万ドルに引き下げられる可能性がある。これはトランプ大統領が2017年、企業と富裕層への恩恵を含んだ税制改革法案に署名する前の水準だ。

大統領選の結果は不透明で、税制改革が提案されたとしても議会を通過するかどうかは明らかではない。複雑で審議に時間を要する改革となる可能性もある。だが世論調査でバイデン氏の支持率が上昇しているため、富裕層は来年の税負担増大を回避しようと、信託の設定や既存信託の変更を急いでいる。

富裕層向けの財産管理を専門とするニューヨーク州の弁護士、トニ・アン・クルーゼ氏は「1158万ドル問題とは『相続税の非課税枠がどうなるか』だ」と指摘。「大統領選で誰が勝利するか、上院と下院でどの党が多数派となるかは、わからない。これらの要因すべてが、非課税枠の行方に影響するだろう」と話した。

中間層の経済立て直しを語るバイデン

バイデン氏のウェブサイトによると、同氏は有給の介護休暇や療養休暇の財源を確保するため「相続税を2009年の水準に戻す」方針も示している。

バイデン氏の計画には、長期キャピタルゲインへの課税の引き上げも盛り込まれている。それによると、所得が100万ドルを超える納税者は長期キャピタルゲインに39.6%の税率が適用される。現在は所得44万1450ドル以上の個人の税率20%を上限に、税率が段階的に設定されている。

バイデン陣営の広報担当アンドリュー・ベイツ氏は声明で、バイデン氏は生活が苦しい人に恩恵をもたらす税制改革を目指していると説明。「ジョー・バイデンはこの国の背骨、すなわち中間層を立て直すために出馬している。ただの資産ではなく、勤労に報いる経済にすることによってだ」と述べた。

FAの話では、遺産相続計画の変更依頼は、世論調査でバイデン氏の支持率がトランプ氏を上回った6月に大きく増えた。

ニューヨーク州を拠点とする不動産鑑定会社ミラー・サミュエルのジョナサン・ミラー最高経営責任者(CEO)は、同社では税務関連の業務が通常の3倍に増えたと話した。「当社は現在、贈与税と相続税の算定依頼が殺到している」

同州のフィリップ・マイケルズ弁護士はここ数カ月で、遺産相続計画の変更を依頼する富裕層顧客が15人程度増えた。

ニューヨークの金融助言会社ロックフェラー・キャピタル・マネジメントのシニア資産ストラテジスト、ジョー・ロバーツ氏は、顧客は現在の制度が急転換し、抜本的に見直されることを心配していると話した。

(Suzanne Barlyn記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・トランプ「土壇場の大逆転」2度目は空振り? 前回と異なる要因
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ



20250128issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月28日号(1月21日発売)は「トランプの頭の中」特集。いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=

ビジネス

米新政権の政策、欧州インフレへ大きな影響見込まず=

ワールド

EU外相「ロシアは安保の存続に関わる脅威」、防衛費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中