トルコを紛争に駆り立てる「新オスマン主義」の危険度
Turkey Presses On with Activist Agenda
念願のEU加盟は、いつになっても見通しが立たない。2016年のクーデター未遂事件や、シリアにおけるIS(自称イスラム国)掃討戦でアメリカがクルド人の民兵組織と共闘したことも、トルコ人の反米感情を助長した。そうしたことが重なって、西側との関係見直しを支持する世論が形成されている。
AKPが極右政党の民族主義者行動党(MHP)と組んだことも、この流れを加速した。さらにエルドアンは内政面で反リベラルの強権的な姿勢をむき出しにしており、これも西側との対話や信頼構築を困難にしている。
経済の繁栄か安全か
こうして、外交は大国トルコの復活と台頭というシナリオに欠かせない要素となった。近年のトルコ指導部が外交面でしばしば好戦的な言葉を口にするのも、このシナリオに沿っている。
このシナリオによれば、何をやっても諸外国から妨害されるのは、トルコが大国として台頭している証拠だ。外為市場でトルコの通貨が揺さぶられるのも、外国政府や怪しげな国際陰謀組織がトルコの経済成長を嫉妬し、妨害しているからということになる。地中海東部や中東地域における孤立化も、トルコが地域で突出した国になったことの必然的な結果とされる。
第3の論点は政治の現実に関連している。今のトルコは国外の紛争に次々と軍を送っているが、そんなことをいつまで続けられるのかという疑問がある。しかも今は構造改革の遅れと新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で経済が疲弊している時期だ。
2013年に9510億ドルのピークを迎えて以来、トルコの名目GDPは縮小に転じており、昨年実績は7540億ドル。この6年で2000億ドルも減った。こうなると政権与党への信頼も落ちる。世論調査によると、8月時点のAKPの支持率は31%。2018年の議会選における得票率43%から大幅に低下している。
では、経済が停滞すればエルドアンも外交面の積極介入政策を転換するだろうか。残念ながら、事実は逆だ。トルコ政府はシリアから、リビア、さらにはナゴルノカラバフへと、経済の縮小と反比例するかのように軍事介入を増やしている。経済の厳しい現実が介入を思いとどまらせるどころか、むしろ加速させている。
今のトルコは諸外国に包囲されており、絶えざる攻撃にさらされている。だから反撃せざるを得ない。少なくとも国内的には、そういう理屈が成り立つ。そして戦時に強いリーダーシップが求められるのは世の常だ。しかも、この状況は国民に偽りの二者択一を迫ることになる。経済の繁栄と国家の安全、そのどちらを採るかという選択だ。
孤立を恐れぬ好戦的なレトリックは、短期的には政治的に有効かもしれない。しかし経済の安定という長期的な目標とは両立できない。そして国政選挙で問われるのは経済の実績なのである。
<本誌2020年10月20日号掲載>
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