トルコを紛争に駆り立てる「新オスマン主義」の危険度
Turkey Presses On with Activist Agenda
だがそうなれば、トルコとロシアの間に新たな対立が生まれる危険がある。ナゴルノカラバフの問題は、ロシアにとって微妙なバランス感覚が必要な問題だ。ロシアはアルメニアと宗教的つながりが深い。しかし旧ソ連圏の盟主としてはアゼルバイジャンを切り捨てることもできない。
最終的には、ロシアがナゴルノカラバフに一定の「境界線」を引いて事態の収拾を図ろうとするだろう。ただしアゼルバイジャンが武力で領土を取り戻すことは、ロシアとしても容認できない。
ではいつ、どこにその境界線を引けばいいのか。読みを誤ればトルコとの関係が再び悪化する可能性がある。そうなった場合、シリアやリビア、東地中海の地域に加えて、ナゴルノカラバフも大掛かりな国際紛争の舞台になることだろう。
オスマンの栄光を再び
世界は今、トルコの外交・安全保障政策の転換を目の当たりにしている。トルコ政府は外交面でこれまで以上に自己主張をするようになっており、また自国のハードパワー(軍事力や経済力)を信じて地域紛争に積極的に関与する姿勢を強めている。
いったい何が、エルドアン大統領のトルコを強硬路線に駆り立てているのか。そして周辺地域の紛争に前のめりで関与していく姿勢は、本当に持続可能なのか。
考慮すべき論点は少なくとも3つある。
まずは世界秩序の問題。近年のアメリカは欧州東部、とりわけバルカン半島への関心を失い、そこに権力の空白が生じた。EUにとっては、これら旧ソ連圏諸国に対する外交・安全保障面の影響力を増大するチャンスだが、加盟国間に温度差があって有効な手を打てない。そこに、トルコが付け込む余地ができた。
第2は、トルコの与党・公正発展党(AKP)とその指導者エルドアンの政治的イデオロギーだ。AKP指導部は近代トルコの「世俗主義」と決別してイスラム色を強める一方、アメリカを中心とする現在の世界秩序の維持に強く抵抗している。
エルドアンのトルコが目指すのは、かつてのオスマン帝国時代の栄光を取り戻すことだ。「新オスマン主義」と呼ばれることもある危険な思想だが、国民の自尊心をくすぐるには都合がいい。欧米との関係悪化による経済の停滞で国民の間には不満がたまっているが、「トルコを再び偉大に」という呼び掛けはそのガス抜きに最適だ。