最新記事

トルコ

トルコを紛争に駆り立てる「新オスマン主義」の危険度

Turkey Presses On with Activist Agenda

2020年10月14日(水)17時40分
シナン・ユルゲン(カーネギー・ヨーロッパ客員研究員)

magw201014_Turkey2.jpg

ナゴルノカラバフ自治州で再燃した戦闘で破壊されたビル HAYK BAGHDASARYAN-PHOTOLURE-REUTERS

だがそうなれば、トルコとロシアの間に新たな対立が生まれる危険がある。ナゴルノカラバフの問題は、ロシアにとって微妙なバランス感覚が必要な問題だ。ロシアはアルメニアと宗教的つながりが深い。しかし旧ソ連圏の盟主としてはアゼルバイジャンを切り捨てることもできない。

最終的には、ロシアがナゴルノカラバフに一定の「境界線」を引いて事態の収拾を図ろうとするだろう。ただしアゼルバイジャンが武力で領土を取り戻すことは、ロシアとしても容認できない。

ではいつ、どこにその境界線を引けばいいのか。読みを誤ればトルコとの関係が再び悪化する可能性がある。そうなった場合、シリアやリビア、東地中海の地域に加えて、ナゴルノカラバフも大掛かりな国際紛争の舞台になることだろう。

オスマンの栄光を再び

世界は今、トルコの外交・安全保障政策の転換を目の当たりにしている。トルコ政府は外交面でこれまで以上に自己主張をするようになっており、また自国のハードパワー(軍事力や経済力)を信じて地域紛争に積極的に関与する姿勢を強めている。

いったい何が、エルドアン大統領のトルコを強硬路線に駆り立てているのか。そして周辺地域の紛争に前のめりで関与していく姿勢は、本当に持続可能なのか。

考慮すべき論点は少なくとも3つある。

まずは世界秩序の問題。近年のアメリカは欧州東部、とりわけバルカン半島への関心を失い、そこに権力の空白が生じた。EUにとっては、これら旧ソ連圏諸国に対する外交・安全保障面の影響力を増大するチャンスだが、加盟国間に温度差があって有効な手を打てない。そこに、トルコが付け込む余地ができた。

第2は、トルコの与党・公正発展党(AKP)とその指導者エルドアンの政治的イデオロギーだ。AKP指導部は近代トルコの「世俗主義」と決別してイスラム色を強める一方、アメリカを中心とする現在の世界秩序の維持に強く抵抗している。

エルドアンのトルコが目指すのは、かつてのオスマン帝国時代の栄光を取り戻すことだ。「新オスマン主義」と呼ばれることもある危険な思想だが、国民の自尊心をくすぐるには都合がいい。欧米との関係悪化による経済の停滞で国民の間には不満がたまっているが、「トルコを再び偉大に」という呼び掛けはそのガス抜きに最適だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中