バイデン勝利にラティーノ票の不安 民主党がハートをつかみきれない訳
THE FIGHT FOR THE LATINO VOTE
バイデン陣営はラティーノ社会への訴求に「歴史的な」金額を投じたとしているが、具体的な金額は明らかにしていない。しかしバラク・オバマ前大統領の下で働いていた人材を含め、多くの中南米系スタッフを雇い入れ、しかも重要な地位に就けている。
その1人がロドリゲスだ。彼女はメキシコ系の労働運動指導者で今も敬愛されているセサール・チャベスの孫娘。ラティーノ票を掘り起こす切り札として、5月になってバイデン陣営の選対副本部長に抜擢された。一方で古参のアレックスは、バイデン陣営に接触してくる多くの中南米系指導者とのパイプ役を務めているようだ。
トランプ離れが起きない理由
「ラティーノ票なくして勝利はない。だからその掘り起こしに全力を傾け、バイデンは私たちのコミュニティーの味方だと訴えている」とロドリゲスは言う。「主要な激戦州ではラティーノを動かせるスタッフを雇い入れたし、ノースカロライナやミネソタ、ネバダではラティーノ向けの有料広告を強化している」
対するトランプ陣営は、今さらラティーノを味方に付けなくていい。少しでも既存の支持を増やせれば、それでOKだ。9月1日に電話会見した陣営幹部のジェーソン・ミラーによれば、トランプはラティーノ票の40%を獲得できる見込み。これは2004年に再選を果たしたジョージ・W・ブッシュに匹敵する数字だ。
それに比べて、バイデン支持は盛り上がりを欠く。NBCニュース/ウォールストリート・ジャーナル/テレムンド・ネットワークによる9月13〜16日の共同調査では、ラティーノのバイデン支持は62%にとどまった(トランプ支持は26%)。4年前のヒラリー・クリントンは投票日直前の調査で、ラティーノ有権者に限ればトランプに37ポイントの差をつけていた。だが9月15日のCNNの報道によれば、バイデンのリードは28ポイントにすぎなかった。
ピュー・リサーチセンターによると、ラティーノでも有権者の10人に3人前後は保守だ。だから4年前にトランプがラティーノ票の28%を集めたのは驚くことではない。今回は30%台半ばまで行けるとトランプ陣営は豪語しているが、ハードルはかなり高い。典型的な保守穏健派だったブッシュでさえ、2000年に獲得できたラティーノ票は35%、2004年も40%だった。
ラティーノが肌で感じているのは経済的苦境だけではない。彼らの新型コロナウイルスの感染率と死亡率はずば抜けて高い。ピュー・リサーチセンターによる9月の調査で、コロナ危機を大統領選の「非常に重要」な争点としたラティーノ有権者は、全体の平均より10ポイントも多かった。
しかし大々的なトランプ離れは起きていない。2012年の大統領選でオバマはラティーノ票の71%を獲得し、共和党のミット・ロムニーの27%に大きく水をあけたが、現時点でそこまでの差は見られない。2018年の中間選挙でも民主党はラティーノ票の69%を獲得したが、バイデンの数字はその水準に達していない。