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南コーカサス

アゼルバイジャンとアルメニアで因縁の戦いが再燃した訳

A War Reheats in the Caucasus

2020年10月6日(火)19時30分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

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「アルツァフ共和国」の首都ステパナケルトのシェルター FOREIGN MINISTRY OF ARMENIA-REUTERS

今年に入って事態が悪化した原因は?

具体的な要素はいくつかある。夏から国境付近で小競り合いが続き、互いに相手が先に仕掛けてきたと非難している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で社会のストレスが高まり、経済は破綻しかけていて、政治家はいつも以上に愛国心を前面に押し出している。

新たな戦争が起きれば事態は変わるのか?

アゼルバイジャンがナゴルノカラバフを奪還することはなさそうだ。最初の交戦では双方に犠牲者が出たが、アルメニアが発表した映像を信じるなら、物理的な破壊の被害はアゼルバイジャンのほうがはるかに大きい。

独立機関の評価では、アゼルバイジャンの軍備はいまだに貧弱だ。兵士の士気は低く、腐敗し、非効率的で、脱走率は20%近くに達する。

2008~14年は石油収入で新しい装備に巨額の資金を投入したが、原油価格が暴落。政治の混乱と残忍な弾圧が続くなか、アゼルバイジャンは財政的な苦境に立たされている。

アゼルバイジャンが予想外の猛攻撃に出ても、ロシアによる直接的な介入を招き、短期間で停戦を余儀なくされる可能性が高い。ロシアと、両国と国境を接するイランなどは仲介を申し出ている。

一方で、紛争の拡大も懸念される。特に、トルコはアゼルバイジャンを強く支持している。トルコ人はアゼルバイジャン人と文化や経済など結び付きが強く、アルメニア人とは長年対立してきた。1915年にオスマン帝国で起きたアルメニア人のジェノサイド(大量虐殺)をトルコは今なお否定しており、両国の関係は険悪だ。

当初の紛争に見られた宗教的側面は、民族主義的な熱狂に比べると控えめで、ナゴルノカラバフがチェチェンのようなジハード(聖戦)の大義になったことはない。過去には約2000人の元ムジャヒディン(アフガニスタンのイスラム・ゲリラ組織)がアゼルバイジャン側で戦ったが、主に経済的な理由からだった。しかし、それも今回は変わるかもしれない。

とはいえ、最も可能性が高いのは、小規模かつ痛みを伴う戦争の後に、未解決の停戦状態が続く筋書きだろう。今回の戦闘の犠牲者の大半は、紛争が始まったときは生まれてさえいなかったのだが。

From Foreign Policy Magazine

<2020年10月13日号掲載>

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