最新記事

インドネシア

菅首相、来週訪問のインドネシアはコロナ急増でASEAN内最悪に さらに懸念される中国を意識した無謀な経済援助

2020年10月15日(木)21時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

そんな状況にも関わらずジャカルタのアニス・バスウェダン州知事は10月12日にそれまでにPSBBの規制を緩和する措置に踏み切った。感染者の増加傾向が鈍ったというのがその理由だが、ジョコ・ウィドド大統領による「広域の活動規制は経済活動の停滞を招く」との意向も背景にあったとされている。

PSBBの規制が緩和されるのは2回目で、州政府は政府同様に都合のいい統計、数字を根拠に規制緩和、経済活動再開を促進しようとして結局、感染者増加に歯止めがかからず逆戻りすることを繰り返しているのが実情である。

菅首相訪問にインドネシアが期待すること

こんなASEAN最悪のコロナ感染者・死者を記録し続けるインドネシアを10月20、21日に日本の菅首相が公式訪問する。

全34州の中でも最もコロナが蔓延している首都ジャカルタを避けて西ジャワ州のボゴールにある大統領宮殿でジョコ・ウィドド大統領との首脳会談に臨む予定という。

ベトナムとともに菅首相の初の外遊先に選ばれたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領だが、国内では「感染予防より経済優先」としてマスコミや野党から批判を受けている。

また親日の立場を堅持しながらも中国との関係をも重視するというジョコ・ウィドド大統領との間の首脳会談で菅首相は「コロナウイルス対策」での協力とともに「南シナ海問題での国際海洋法に基づく秩序という基本姿勢確認」を重要議題にあげるだろうが、インドネシア側にしてみれば2国間の経済問題が最重要課題となる。

注目は中国が受注して大幅に工事が遅れているジャカルタ~バンドン間の高速鉄道計画への日本の協力を求めるかどうかだ。ジョコ・ウィドド大統領は5月29日に「中国中心のコンソーシアムに日本の追加を検討している」との意向を経済担当調整相に明らかにしたというが、日本側に正式に依頼したとの続報はこれまでのところなく、今回の首脳会談でそこまで踏み込むか注目されている。

このほか日本からの投資促進と同時に経済援助を引き出したいインドネシア側には「中国からそして日本からも」と日中それぞれの関係を強調して「もらえるものはもらう」という思惑の戦略で会談に臨むのは間違いない。

初の本格的外交デビューとなる菅首相にしてみれば外交成果として経済援助などでの合意で首脳会談の成果を目一杯アピールしたいだろうし、それはインドネシアにとっても願ってもないことである。

その辺の機微な状況をきちんと菅首相の耳に正確に入れることを外務省や現地の日本大使館が整然と行っているのだろうか? むしろ「訪問ありき、初会談ありき」でインドネシア側の要望を全面的に受け入れる結果になるのではないだろうかと懸念を抱かざるをえない状況だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中