最新記事

ドイツ妄信の罠

「ドイツは謝罪したから和解できた」という日本人の勘違い

TRUTH, NOT APOLOGIES

2020年10月27日(火)20時33分
ジェニファー・リンド(米ダートマス大学准教授)

過去を認める姿勢が重要

おそらくドイツの事例から得られる最も重要な教訓は、過去の事実を認めることの必要性だ。西ドイツ政府が(保守派のアデナウアー政権の下で)下した重要な決定の1つは、戦時暴力の責任を認めたことだった。アデナウアーはイスラエルへの補償を実現させるために、左派と手を組んで与党内部の反対を抑え込んだ。51年の演説で述べたように、それによって「ユダヤ人に対する言語を絶する犯罪」の責任を取ったのだ。

こうした西ドイツ政府の対応は、他の国々の過去の戦争に対する姿勢とは対照的だ。実際、国家は過去の暴力を否定することが多い。そのような否定は外交関係に悪影響を及ぼし、和解の努力を妨げる。

安倍前政権の政策は、真実を語ることの重要性を示している。出だしは失敗だった。安倍は慰安婦問題への官憲の関与を認めた93年の「河野談話」の見直しを主張して世界的な反発を招き、さらに2013年の靖国参拝で元被害国を怒らせた。

だが安倍はその後、過去の暴力を認めることの重要性に気付いたようだ。15年8月の戦後70年談話では、戦時中の日本の侵略行為による外国の犠牲者に言及した。

ドイツの経験は、アジアでの和解に必ずしも謝罪は必要ないが、日本が過去の人権侵害を認め、それを国民に教える必要があることを示唆している。日本にとって重要なのは、中国や韓国、その他の国の人々の苦しみを理解することだ。

ドイツ・モデルが示すように、事実を認めることは和解に向けた大きな一歩になる。

<本誌2020年11月3日号「ドイツ妄信の罠」特集より>

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物続伸、ウクライナ紛争激化で需給逼迫を意識

ビジネス

午前の日経平均は反発、ハイテク株に買い戻し 一時4

ワールド

米下院に政府効率化小委設置、共和党強硬派グリーン氏

ワールド

スターリンク補助金復活、可能性乏しい=FCC次期委
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中