菅義偉、原点は秋田県湯沢のいちごの集落 高齢化する地方の縮図
子どものころからの友人、由利昌司氏が見せてくれた15歳のころの菅義偉氏(左)。秋田県湯沢市にある由利氏の自宅で撮影(2020年 ロイター/Chris Gallagher)
気温が上がってきた夏の昼どき、街の中心部にある商店街は半分以上の店がシャッターを下ろしている。通りに人影はほとんどなく、たまに見かける通行人はみんな高齢者だ。
百貨店の大きなビルは、耐震基準に合わずに使われなくなったが取り壊すにもコストがかかるため放置されている。駅からほど近い、「I LOVE YUZAWA(湯沢が大好き)」と壁面に書かれた建物にも人は見当たらない。
東京から480キロ離れた秋田県湯沢市は、次期首相の座が近づく菅義偉官房長官(71歳)の故郷だ。菅氏が生まれ育った秋ノ宮の集落は住民の半数近くが60歳以上、これから菅氏が日本のリーダーとして直面する問題が凝縮されている。
湯沢市は人口減と高齢化で税収が悪化、財政は政府からの補助金に依存せざるを得ない。県内の他の自治体との合併が選択肢の1つとして浮上している。
「世界で最も高齢化が進む日本の中でも、一番は秋田。その中でも湯沢が最も進んでいる。高齢化の一番の先端はこの湯沢ということになる」と、湯沢市役所の阿部透課長は言う。阿部課長によると、住民の40%近くを65歳以上が占め、日本の全国平均28%を大きく上回る。
「正直なところ、国からの財政支援がないと回って行かない」と、阿部課長は話す。市の年間予算270億円のうち、税収で賄えているのは5分の1に過ぎないという。
たばこは貴重な税収
湯沢市は、冬になると2メートルの雪が積もる豪雪地帯でもある。そんな街で生まれ育ったということが、世襲や裕福な家庭の出身者が多い日本の政界の中で、「叩き上げ」という菅氏のイメージを際立たせる。
そして、それは外国人観光客の誘致、農協改革、ふるさと納税という形で菅氏の政策にもつながっている。
看板政策のふるさと納税が始まったのは2008年だが、「(その)はるか前から話をしていた」と、総務官僚として菅氏のもとで働き、のちに事務次官になった岡崎浩巳氏は振り返る。「自分は秋田で高校まで育って世話になっているのに、上京してから一銭も(故郷に)納税していないのはおかしい。何か仕組みはないだろうか、と」。
住民の多くは経済的な衰退の原因を人口減少、とりわけ低い出生率にあるとみている。
すでに廃坑となった銀山で働いていた人たちを含め、1955年には8万人がこの街で暮らしていた。それが今は半減、昨年高校を卒業した生徒はわずか442人だった。