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新型コロナウイルス

アストラゼネカのワクチン開発中断は良いニュースだ

Pausing Vaccine Trial Over Participant Illness a Good Thing, Experts Say

2020年9月10日(木)16時20分
カシュミラ・ガンダー

さらに、報告された疾患がワクチンによって引き起こされたとみるのは早計だと、エバンズは釘を刺している。

仮にワクチンと疾患に因果関係があったとしても、ほかの要因も絡んでいる可能性があるため、それだけでこのワクチンがお蔵入りになることはないと、エバンズは言う。一部の人には投与できないが、ほかの人たちには投与できる可能性があるからだ。

英レディング大学のイアン・ジョーンズ教授(ウイルス学)も声明で、「治験中断は不吉というより不運な出来事と見るべきだろう」と述べた。

こうした中断はよくあると話すのは、英国免疫学会のダグ・ブラウン会長だ。「開発チームが安全性を最優先しているなら、中断はつきものだ」

「ワクチンは感染症を予防し、人命を救うが、徹底的に安全性を検証しなければ、大規模な投与には踏み切れない。(健康な人に投与することから)安全性が非常に重要なため、ワクチンの試験は実験室でも、臨床でも何段階ものステップを踏み、驚くほど複雑な手順を踏んで行われる。どんなに急を要しても、臨床試験では、被験者の健康状態をモニターする数多くの厳格な安全手続きを守らなければならない」

政治的圧力は禁物

中断が発表されたことで、治験には徹底した厳密な手順が「不可欠」なことが一般の人にも分かったはずだと、ブラウンはみる。できるだけ早く開発にこぎつけようと開発チームに政治的圧力をかける動きも目につくが、アストラゼネカとオックスフォードはそれに負けなかったのだ。

中断の決定は、「逆説的ではあるが、良いこととみるべきだ」と、英ウォリック大学医学大学院の名誉臨床講師ジェームズ・ギルは声明で述べた。「COVID-19のワクチン開発のニュースを待ち望んでいる一般の人にきちんと情報を開示する、透明性の高い倫理的な科学研究の模範として擁護すべき」決定だ、というのだ。

「科学者たちはそもそもの始めから、ワクチン開発には時間がかかると口を酸っぱくして言ってきた」のに、誰も耳を貸さなかっただけだ。

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