菅首相の肝いりデジタル戦略を待ち構える2つの「罠」
震災復興のように、日本のデジタル化についても、その方向性に反対する声は少ないだろう。世界的に見て遅れているデジタル化の促進は、コロナ後の世界で必要な戦略だ。しかし、反対しにくい総論賛成な政策には、よく見れば関係なさそうな予算を紛れ込ませやすい。
東日本大震災の発生から来年で10年が経つ。2012年に誕生した「復興庁」は2031年まで設置される予定だ。2020年度概算予算額は1.4兆円。過去最少だが、依然として少ない額ではない。
長期政権と構造改革
こうした課題に対して、今のところ菅首相はうまく対処してるようにみえると、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は評価する。
「デジタル庁は廃止時期を明記した時限組織とされる可能性がある。時限措置であれば、省庁も受け入れやすい。そして新しい仕組みや制度は、一度導入してしまえば、恒久化はそう難しくないものだ」と矢嶋氏は指摘する。
医療関係者などから強い抵抗のあったオンライン診療は恒久化の可能性が出てきている。田村憲久厚生労働相は17日の会見で、初診患者のオンライン診療の利用を認める時限的措置の恒久化について、検討を進める考えを明らかにした。
デジタル化は、既存の業務をデジタルに置き換えることであり、仕事を減らすという一面を持つ。新しい雇用を生み出す一方で「痛み」も生じやすい。
安倍晋三前政権は、金融政策や財政政策を大胆に実施したが、第3の矢である構造改革は十分進まなかったと批判されることが多い。しかし、「構造改革による『痛み』を先送りしてきたからこそ長期政権を築くことができた」(外資系証券エコノミスト)との評価もある。
長期政権でなければ、構造改革を進めることは難しい。しかし、構造改革により反発が強まりすぎれば、長期政権は危うくなる。これまでの政権を悩ませてきたこの「二兎」を、菅新政権がいかに追うか、金融マーケットも注目している。
伊賀大記(編集:久保信博)
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