トランプ vs バイデン 無党派層獲得で両極端の戦略
今回の世論調査では、黒人有権者でのバイデン氏のリードは62ポイントと、7月から6ポイント拡大し、少なくとも過去6カ月間で最大となった。
バージニア大選挙センターのアナリスト、カイル・コンディク氏は、コロナ禍前であれば、トランプ氏のメッセージはもっと強力だっただろうと指摘。「秋になって、今より新型コロナへの注目が薄れているならば、(トランプ氏の手法は)成功するかもしれない。そうなるとは考えにくいが、可能性はある」と語った。
中道派にアピール
共和党大会はあらゆる場面でトランプ氏を賞賛するだけでなく、予備選の期間中はおおむね中道派候補として戦ってきたバイデン氏が、結局は党内の極左分子に報いる政策を行うと強調することにも同様に力を注いだ。バイデン氏に傾きそうになっている共和党支持者や、投票先未定の有権者を説得するためだ。
警官による黒人男性ジョージ・フロイドさん殺害に抗議するデモは大半が平和的だが、共和党大会では何人もの発言者が、デモでの犯罪と暴力行為をバイデン氏が黙認していると批判した。
現在はウィスコンシン州で黒人男性ジェーコブ・ブレークさんが警官に背後から銃撃された事件を受け、新たなデモの波が広がっている。
トランプ氏陣営に近い共和党コンサルタント、フォード・オコネル氏は、党大会のプログラムの大半は、分断をあおるトランプ氏のスタイルに「幻滅」しつつも彼を支持する理由を探し続けている有権者を対象にしたものだった、と解説した。
トランプ氏がめったにコロナ禍で苦しむ人々への同情を示さない中、メラニア夫人は慰めの言葉をかけてみせた。またペンス副大統領はバイデン氏について、トランプ氏よりは政治家的な批判を展開し、トランプ氏の毒舌にへきえきしている共和党支持者の心に訴えた可能性がある。
トランプ氏陣営には加わっていない共和党ストラテジストのライアム・ドノバン氏は、ウィスコンシン州のデモによる騒乱は、これまでの他のデモでは見られなかった追い風をトランプ氏に吹かせるかもしれないと指摘する。コロナ禍が収まらず経済的苦境が続く中、「混乱と不透明感はトランプ氏の最良の友」になるという。
暴力行為も戦略
バイデン氏も27日、献金者に対する演説で、トランプ氏は混乱を歓迎していると示唆。「暴力行為はトランプ政権、トランプ氏の米国で起こっている」とし、「トランプ氏から見れば、暴力行為は問題ではない。暴力行為は政治的戦略のうちなのだ」と断じた。
コロナ禍に焦点を絞り続けたいバイデン氏にとって、抗議デモは厄介な問題だ。デモ参加者への連帯を示す一方で、同氏も地域社会の破壊は批判し、民主党内の活動家が求める警察部門の予算縮小には支持を示していない。
2012年の大統領選でオバマ前大統領の選挙運営を担当したジム・メッシーナ氏は、共和党がデモを苛烈な言葉で批判するほど、厳しい二極化に歯止めをかけたい無党派層を遠ざける可能性があると指摘。「トランプ氏は右側に寄り過ぎていて、中道派層を獲得し損ねている」との見方を示した。
民主党大会では、コロナ禍とトランプ氏による郵便投票制限によって投票率が下がるという懸念が、同党に根深くあることも鮮明になった。
オバマ前大統領のミシェル夫人は国民に、「私たちの命がかかっている以上、バイデン氏に投票しましょう」と呼び掛けた。
(James Oliphant記者)
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