最新記事

ベラルーシ

「ルカシェンコ後」のベラルーシを待つ危険過ぎる権力の空白

A Hard and Fast Fall

2020年8月25日(火)18時15分
デービッド・パトリカラコス(ジャーナリスト)

この1週間余りで話を聞いた人の大半が、自分たちの勝利を確信していた。そして、ニキータのような人たちが拷問の傷痕も生々しく釈放され始めると、人々は決意を固めた。6700人以上が逮捕された。行方が分からない人もいる。ルカシェンコは退陣するしかなさそうだ。

ただし、油断はできない。今から約6年前、筆者はウクライナの首都キエフの独立広場で起きた抗議活動の余波を取材した。親モスクワ派の指導者を退陣させた国に、ロシアが軍隊を投入する様をこの目で見た。

クレムリンは裏庭の警戒を怠らない。ロシア連邦には数多くの共和国があり、それぞれが分離主義者の野望を抱えている。キエフの次はミンスクか? チェチェンか? ダゲスタンか?

もっとも、ベラルーシとウクライナは事情が異なる。ウクライナでは、モスクワが代理政党や役人、経済界、メディアに勢力を築いていた。

ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ南部のクリミア半島を併合して東部に進出した際は、親ロシア派のネットワークを頼りにできた。さらに、ウクライナ、特にクリミアを分断している民族対立も利用できたが、そのような要素はベラルーシにはない。

ベラルーシの反体制活動家フラナク・ビアチョルカは、ロシアの侵攻はいかなる形でも、多くの抵抗を招くだろうと語る。「ロシアの完全な支配を支持する人はいない。ルカシェンコもそれを理解していて、ロシアによる統合のプロセスを遅らせてきた」

とはいえ、状況は依然として緊迫している。チハノフスカヤは治安部隊から圧力を受けて隣国リトアニアに逃れたが、少なくとも言葉では、革命の機運を率いている。

危険過ぎる政治的停滞

ルカシェンコが現実に失脚しつつあるとしたら、権力の空白が生まれようとしている。その空白を反体制派が掌握できなければ、ロシアに奪われるか(軍事侵攻抜きの政治的な影響力だけでも、十分に可能だ)、ベラルーシの暴力的なエリート層、おそらく治安部隊が制するだろう。

チハノフスカヤには勢いがあるが、彼女は政治家ではない。自分は暫定的な指導者として、新たに行う公正な選挙を監督するだけだと明言しており、現在は国外にいる。

ここに危険な政治的停滞が生まれつつある。それを解決するには、抗議活動が新たな選挙を実現させるか、ロシアが介入するしかないだろう。

「この状況が何週間、何カ月と続く可能性がある」とビアチョルカは言う。「時間がたつほど、ロシアが支配権を奪いやすくなって、誰も望んでいない状況になる」

From Foreign Policy Magazine

<2020年9月1日号掲載>

【関連記事】ロシアがベラルーシに軍事介入するこれだけの理由
【関連記事】ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運

【話題の記事】
12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」
コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる
介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕

20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中