最新記事

中国

中国はなぜ尖閣での漁を禁止したのか

2020年8月20日(木)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、「尖閣諸島周辺など敏感海域に行って漁労してはならない」という決定を、より多くの地方政府が決め始めたのは2017年5月だ。これは2016年8月における200~300隻に及ぶ中国漁船の大量襲撃を受けて、日本政府が改善を求めたことが影響しているという要素は否定できない。しかし決定的なのは、何と言っても2016年5月に反中的蔡英文政権が誕生したことだという事実を見逃してはならない。

いずれにせよ、その頃まで安倍政権は健全だったのではないかと思う。

しかし安倍首相が国賓として中国に招聘される交換条件として一帯一路に協力することを約束し、自分が国賓として招聘されたことと交換に、今度は習近平国家主席を国賓として日本に招聘することを約束してしまった。

この辺りから安倍政権はおかしくなり始めた。

そして習近平は「この私を国賓として招待したいんでしょ?だったら、私が尖閣周辺に中国公船を行かせても、あなたは文句を言いませんよね?」とすごむようになってきた。

それが連日の尖閣諸島接続水域及び領海における中国公船の我が物顔のような侵犯行為だ。

習近平が狙うのは台湾。

台湾こそは中国の最大の核心的利益だ。

日本の尖閣諸島は台湾を囲む第一列島線の中にある。

台湾を巡る米中軍事対立にまつわる中国の秘めた戦略を乱されたくない。米中対立が激化している中、かつてのように反日デモなどが起きたらお終いだ。

そのためには「漁船ごとき」で日中間の摩擦を増やしたくはないのである。国家戦略と違い、民間人である漁民は何をするか分からないし、何かあった時に漁民を見捨てるのか国家を取るのかといった選択をしなければならない事態に巻き込まれる「やっかいさ」もある。

地方政府もそこには巻き込まれたくないのだ。それにより国家の戦略の邪魔になるようなことになれば、地方政府は中央に睨まれる。そういう事態からは逃れたい。

そこまで見極めないと、この「なぜ」は解けない。

たまたま8月16日の日曜スクープ(テレ朝BS)におけるリモート出演で、「最後の30秒」を使って以上の説明をしなければならない羽目になった。30秒を超えると、残り二人の発言が阻害される。それだけはやってはならない。結果、一瞬の判断で、十分なことが言えなかった。申し訳なく、また内心忸怩たるものがあり、説明の機会をここに頂くことにした。お許しいただきたい。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中