深まるベイルート大爆発の謎 原因となった硝酸アンモニウム、所有者は誰か?
写真は2014年夏、ベイルートの港に停泊中の貨物船「ロサス」で、積み荷の硝酸アンモニウムを背に写真に収まる船長(右)と甲板長ボリス・ムシンチャク氏。ムシンチャク氏提供(2020年 ロイター)
レバノンの首都ベイルートの大爆発に関してロイターは、港湾地区に保管され、爆発を引き起こした大量の硝酸アンモニウムの所有者を突き止めるべく、10カ国で取材を展開した。
しかし文書の紛失、情報の秘匿、複雑に結び付いた正体のはっきりしない小さな企業などが出てくるばかりで、所有者の身元を割り出すことはできなかった。
硝酸アンモニウムをベイルートまで運んだモルドバ船籍の貨物船「ロサス」の関係者はいずれも、所有者を知らないか、質問への回答を避けた。ロサスの船長、硝酸アンモニウムを製造したジョージアの肥料メーカー、製品を発注したアフリカ企業は全て所有者が分からないと回答。発注元のアフリカ企業は製品の代金を支払っていなかった。
船積み記録によると、ロサスは2013年9月にジョージアで硝酸アンモニウムを積み込み、モザンビークの爆発物メーカーに届けることになっていた。しかし船長と船員2人によると、地中海を離れる前に、同船の事実上のオーナーとみられていたロシア人実業家イゴール・グレシュキン氏から、当初予定になかったベイルートに寄港し、別途貨物を積むよう指示された。
ロサスは同年11月にベイルートに到着したが、未払いの港湾使用料を巡る法的紛争に巻き込まれ、船舶自体にも不具合が見つかり、ベイルートに足止めされた。当局の記録によると、債権者はロサスの登記上の所有者であるパナマの企業に対し、船舶の所有権を放棄するよう迫り、その後硝酸アンモニウムはロサスから降ろされ、埠頭近くの倉庫に保管された。
債権者の代理人を務めたベイルートの法律事務所は、硝酸アンモニウムの当初の法的所有者の身元についての問い合わせに応じなかった。ロイターはグレシュキン氏と連絡を取ることができなかった。
レバノンの通関当局によると、積み荷を全て降ろしたロサスは2018年に停泊地のレバノンで沈没した。
硝酸アンモニウムの代金を誰が支払ったのか、所有者はロサスが沈没したときに積み荷の回収を求めたのか、もし求めなかったのならその理由は何か、こうした問題は依然として謎に包まれている。
ロサスが積んでいた硝酸アンモニウムは2750トン。業界関係者によると、2013年当時の価格で約70万ドル(編集注:現在のレートで約7500万円)相当だという。
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