一方、中国のネットはアメリカの本気度を示す情報も同時に報道している。
8月9日の観察者という中国のサイトは「この敏感な時期に東シナ海の人工衛星がレーガン号の姿を捕えていた」という見出しでアメリカの空母レーガン号を映し出している。
それによれば米海軍第7艦隊に配属されている空母打撃大隊「レーガン号」は、目下、日本海を出港し、東シナ海での巡航行動に入っているとのこと。
アメリカのエスパー国防長官は8月6日、中国の魏鳳和国防部長と電話会談し、「今年以内に訪中する」と宣言したばかりだが、ここで一つ奇妙な現象に気づく。
エスパーは白人警察による黒人男性絞殺で起きた抗議デモに対してトランプが「場合によっては軍を導入する」と言ったことを批判した。危うくエスパー更迭かとなった経緯がある。
アザールはトランプの独善的コロナ対策やコロナに関する発言を批判したことにより、やはり危うく更迭かという状況に陥った。
仮にエスパーを極左(親中)と位置づけ、アザールを極右(反中)と位置付けたなら、アメリカの大統領選が終わり、トランプが仮に再選したとして舵を切り直すとき、「あれは親中分子が中国にすり寄った」とアメリカ国民に弁明することもできれば、「反中分子が極端な道に走った」と習近平に対して「釈明」することもできる。どちらにでも軌道修正をすることができるのだ。
だから、ボルトン暴露本が暴露しているように、トランプの頭には大統領再選しかないので、今はそのためのパフォーマンスという側面があるかもしれない可能性も、頭の隅には置いておく必要もあるだろう。
もっとも、アメリカ国民の対中嫌悪感情は相当に高いので、共和党も民主党も対中強硬策を貫くとは思うが、それでもなお、大統領選が終わるまでアメリカの本気度を静観する必要があるかもしれない。
少なくともトランプ大統領が香港国家安全維持法の施行に向けて、それに関わった香港と大陸の関係者に制裁を与えると宣言したのに対抗して、8月10日、中国政府は11人のアメリカ政府高官などに対する制裁を行うと実名を公開した。
その11人とは「米上院議員マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ、ジョシュ・ホーリー、トム・コットン、パット・トゥーミー、米下院議員クリス・スミス、全米民主主義基金代表カール・ジャーシュマン、全米民主国際研究所所長デレック・ミッチェル(Derek Mitchell)、共和党国際研究所所長ダニエル・トワイニング、ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブディレクターケネス・ロス、フリーダム・ハウス総裁アブラモビッツ(Michael J. Abramowitz)」である。
アメリカが「一つの中国」を崩すところまで持って行けるのか否か、注目したいところだ。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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