最新記事

感染症対策

全米各地のコロナウイルス検査に滞り 「高度な自動化」が裏目に

2020年8月2日(日)19時10分

米国の新型コロナウイルスの検査能力は、世界的にみてどこにも劣らぬ能力を持っているはずだった。しかし、各地の研究所では処理が滞り、多くの患者が判定が出るまでに1週間、あるいはそれ以上待たされる事態が再び生じている。写真は検体輸送を準備するメソジスト・ダラス医療センター。6月24日、テキサス州ダラスで撮影(2020年 ロイター/Cooper Neill)

米国の新型コロナウイルスの検査能力は、世界的にみてどこにも劣らぬ能力を持っているはずだった。しかし、各地の研究所では処理が滞り、多くの患者が判定が出るまでに1週間、あるいはそれ以上待たされる事態が再び生じている。

この危機の根底には、公的、民間を問わず研究所が自動検査機に依存しており、その専用試薬キットやツールを使わざるを得ないという事情がある。そうしたキットやツールを製造しているのは、ごく少数のメーカーに限られている。

ロイターは16の病院や大学の付属研究機関に取材、州や市の調達計画を分析。全国的に感染率が上昇する一方、試薬キットなどの供給体制にボトルネックがあるため、多くの研究所で検査体制がフル稼働に遠く及ばない状態にあることが明らかになった。

この市場を支配しているのは、セファイド、ホロジック、ロシュ、アボット・ラボラトリーズといったひと握りの企業だ。こうした企業の自動検査機は、各社専用の試薬キットや検体プレート、ピペットなどの使い捨てプラスチックパーツがなければ役に立たない。プリンターの専用インクカートリッジのようなものだ。

ワシントン大学の医学研究所の責任者であるジェフリー・ベアド氏は、「メーカー各社は今まさに、2つ返事では注文に応じられない極めて難しい状況に置かれている」と話す。

「COVIDトラッキング・プロジェクト」によれば、米国内の研究所では1日約80万件の検査が行われている。だが各種試算によると、現在必要とされる検査件数は1日600万─1000万件だ。

連邦議会は検査拡充を支援するため110億ドル(約1兆2000億円)の予算を配分した。また5月には、各州が連邦政府に対し、購入予定の機器などを記載した計画を提出した。

だがロイターの分析によれば、各州の計画を総合すると、公衆衛生当局者たちは根底にあるサプライチェーンの問題には対処していないことが分かる。

多くの州では自動検査機の追加購入を計画しているが、そのメーカーはわずか2社である。しかも、試薬やパーツの不足により、他州ではすでに同機種が十分に稼働していない、あるいは休止状態にある。

中国やカナダなど他国では、サプライ品の不足による制約はこれほどひどくない。これらの国では自動検査機の利用が少なく、サプライ品の調達という点で柔軟性が得られているためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中