最新記事

ヨーロッパ経済

堅調ヨーロッパ経済に潜むユーロ高の爆弾

THE HIGH COST OF A STRONG EURO

2020年8月22日(土)11時20分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)

ユーロの対ドルレートの上昇がEUの首を絞める可能性も HANS-GUENTHER OED-STOCK4B/GETTY IMAGES

<「成長の鈍化した国の集まり」と世界中の投資家に評されていたEUが、コロナ危機への対応と堅実な政策決定によって見直され始めているが......>

ヨーロッパは、いま「良い」危機を経験している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とそれに伴う景気後退にもかかわらず、EUは被害を最小限に抑え、その経済への信頼を高めている。だが、それでもリスクを免れるわけではない。

新型コロナの感染拡大と死者数を抑制する点でEUの対応は、例えばアメリカよりはるかに優れていた。経済への対応も予想以上に素晴らしく、全加盟国が労働者の解雇を防ぐ効果的な対策を取った。その結果、失業率はほとんど上昇していない。

EUの景気回復が今の予想どおりうまくいけば、企業はコロナ危機の前と同じ労働力で生産を再開できる。一方で、強力な裁量的財政措置が需要を支えている。

今、世界中の投資家がEUを見直している。以前は成長の鈍化した国の集まりと見なしていたが、今は違う。ペースは鈍いものの、堅実なEUの政策決定を高く評価し始めている。公的債務のレベルが比較的低いことも好印象だ。

EUは世界の他の地域よりもかなり景気がいい。アメリカでは失業率が急上昇し、GDPは今年第2四半期に9.5%縮小した。年率換算で前期比マイナス32.9%という大幅な悪化となり、統計を開始した1947年以来最悪の落ち込みを見せた。

EUが最近合意した7500億ユーロ(約94兆円)のコロナ復興基金は、共通通貨の硬直性に対する懸念を和らげ、その評価をさらに高めている。イタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債のリスク格差の縮小は、危機の克服に役立つはずだ。

しかしEUに対する信頼の高まり(ユーロの為替レート上昇圧力)は、リスク格差縮小の恩恵を相殺するかもしれない。為替レートは、欧州の成長に短期間で大きな影響を与える。2017年末にはユーロが相対的に強かったため、その後2年間の成長が減速した。いまユーロは2017年当時より強い。ここ数週間で名目実効為替レートは5%上昇し、5年ぶりの高値に達している。

問題は、ユーロ圏が非常に開かれた経済だということだ。アメリカではGDPの12%にすぎない生産品・サービスの輸出が、EUではGDPの30%近くを占める。

開放的である上に、輸出に依存しているというEU経済の特徴は、ユーロが上昇し続ければユーロ圏に深刻な問題が起きる可能性を意味する。そのような変化は地政学的な観点からは望ましいかもしれないが、経済的には望ましいとは言い切れない。ユーロ圏のように極めて開かれた経済にとって、これは重大な欠点になり得る。

【関連記事】日本と同様の人口減少を迎えるユーロ圏が受け入れるべき「期待しない時代」
【関連記事】コロナ禍のEU経済を史上最悪の不況が襲う

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中