最新記事

韓国

文在寅大統領「8・15演説」、日本との対話を強調 その事情とは......

2020年8月18日(火)18時40分
佐々木和義

文在寅大統領の支持率は就任以来最低を記録している...... Chung Sung-Jun/REUTERS

<文在寅大統領は、就任した17年以降、公式の場の演説で北朝鮮との対話と南北交流の推進を強調してきたが、今年の光復節の演説では日本との対話を強調した。その事情とは...... >

2020年8月15日、文在寅大統領は、日本の統治から独立解放を記念する光復節の演説で、基本的人権を定めた韓国憲法10条に触れつつ、日本との対話を進めたい考えを強調した。一方、就任以来、繰り返してきた南北交流への言及は影をひそめた。

例年に比べて、日本との対話を強調した文在寅大統領

文在寅大統領は、就任した17年以降、公式の場の演説で北朝鮮との対話と南北交流の推進を強調してきた。日本については、わずかに触れる程度だった。

しかし、今年は日本との対話を強調し、北朝鮮に関しては既に合意した事項を点検しながら半島の平和と繁栄を目指すと述べたに過ぎなかった。

日韓関係に関連して、日本の輸出規制を克服して飛躍の機会にしたと述べ、また、韓国政府はいつでも日本政府と向き合う準備ができており協議の扉を開放しているなど日本と対話する姿勢を強調した。

韓国憲法10条は、国民の尊厳や幸福を追求する権利など、基本的人権を保障する国の義務を定めている。
日韓関係は、2018年10月、韓国の最高裁に相当する大法院が、新日鉄住金に対し、4人の原告に賠償金の支払いを命じた判決を機に悪化した。

文大統領は、日本政府が韓国向け輸出管理強化を発表した昨年7月、4人の原告のなかで唯1人存命している李春植(イ・チュンシク)さんの「私の(訴訟を起こした)せいで韓国が損をするのでは」という発言を取り上げて、個人を守ることが国の損害になるということはないと述べ、人権を守る姿勢を強調した。

日本と関連するビジネス従事者に向けたメッセージ?

日本との対話は公式演説のたびに繰り返されてきた発言であり、国内向けメッセージと見ることができそうだ。

韓国の世論調査会社ギャラップが8月11日から13日に行った調査で、文在寅大統領の支持率は就任以来最低を記録した。支持率は39%、不支持率は53%だった。失業者数が過去最高を更新し、不動産価格の高騰で文大統領の最大支持層である20代から30代のマイホーム取得が困難になった。

文政権に不満を持つ人たちに、朴槿恵前大統領の復帰を求める朴正煕元大統領の信奉者と日韓ビジネス従事者が同調した。韓国では、製品や部材の輸入、日本製品の販売者、観光業に加え、日本製品を使っている建築業者や製造業など、日本と関連するビジネス従事者は少なくない。

日本製品販売業や観光業は昨年のボイコット運動で損害を被ったところに、コロナ禍が重なり、破綻が相次いだ。文大統領が強調した日本との対話は、日本と関連するビジネス従事者に向けたメッセージと受け取れる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中