母国送還かコロナ感染か 米収容所の亡命希望者が突きつけられる残酷な選択
本国送還に誘導か
正体不明の武装集団に誘拐された後、米国に逃れてきたというメキシコからの亡命申請者パトリシア・ヒメネスさんは、アリゾナ州のイーロイ連邦契約施設で新型コロナがまん延するなか、申請を取り下げ、本国送還を求めることにした。同施設では222人の感染が報告されており、ICEの収容センターにおける感染拡大としては2番めに多くなっている。ヒメネスさんの証言は、彼女を担当する弁護士と伯母によっても裏付けられている。
ヒメネスさんは6月末、本国送還を待つ収容センターからの電話で、「感染して、息子に会えなくなるのではないかと本当に怖くなる」とロイターに語った。
ヒメネスさんは、メキシコに戻るのも怖いと言う。
「でも、現時点ではここにいる方が怖い」とし、施設のキッチンで作業していたときに接触のあった警備員が亡くなったことを挙げる。センターの管理事業者であるコアシビックによれば、警備員の死亡は「新型コロナウイルス感染症に関連した問題によるものだった可能性」があるという。
コアシビックの代表者は発表文で、収容者と職員の安全確保に注力していると述べ、ヒメネスさんの主張には「新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐために当社施設が数カ月にわたって取り組んできた積極的かつ前向きな措置が反映されていない」としている。
新型コロナによる合併症のリスクが大きい糖尿病を持病として抱えるメキシコからの亡命申請者ルーカス・カストロさんも、母国に戻るよりも収容施設にいる方が危ないと不安になり、本国送還を希望したという。母国では昨年、麻薬犯罪組織にひどい暴行を受けたという。カストロさんの証言は、彼の妻の言葉や、ロイターが閲覧した亡命申請プロセスの一部である「信じるに値する恐怖」面接の書き起こしによっても裏付けられた。
カストロさんを含む8人の移民はロイターに対し、当局者は収容者の健康上の不安に乗じて本国送還に同意させようとしていた、と語った。
カストロさんによれば、彼が収容されていたアリゾナ州のラ・パルマ矯正施設では、収容者らが頻繁にパンデミックに関する情報や、人道的理由やその他の形による釈放が認められるか否かを知りたがっていたという。
「それなのに、本国送還担当の当局者がやってきて、本当に(感染が)怖いのであれば、単に本国送還への同意書に署名すべきだ、と言ってきた」とカストロさんは言う。同じ施設にいた元収容者2人も、カストロさんの証言に同意した。カストロさんによれば、彼はウイルス感染への恐怖により判事に本国送還を求め、米国側の記録によれば5月末に送還命令が出されている。
ICEの別の広報担当者は、ICEでは、新型コロナウイルス感染症に関連する健康上の不安を口にする収容者に対し本国送還への同意を促す方針はとっていないと話す。この広報担当者によれば、ラ・パルマ矯正施設には、カストロさんが主張する職員の発言について、彼が苦情を申し立てた記録はないという。