最新記事

亡命

母国送還かコロナ感染か 米収容所の亡命希望者が突きつけられる残酷な選択

2020年7月14日(火)11時25分

不十分な感染対策

ICEは(不法)移民の逮捕を抑制しており、一部を仮釈放措置としているが、パンデミックの最中に施設間で収容者の移動を行っているとして批判を浴びた。ICEではこの措置について、ウイルスのまん延を食い止め、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)確保を促進するための取組みの一環であると述べている。またICEに対しては、感染した収容者100人以上を本国に送還したという批判もある。

ICEのデータによれば、ICEの収容センターでは収容者2742人、ICE職員45人について新型コロナ陽性が確認されている。またこの感染症で移民2人が死亡している。ICE施設における医療をめぐる集団訴訟のなかで6月24日に裁判所に提出された資料に含まれるICEのデータによれば、これ以外にも、施設内で感染した場合にリスクが高いと思われる収容者は数千人を数えるという。

ICEの広報担当者は、ICEの裁量による釈放を認めるか否かを評価する際には、その収容者の前科や公衆の安全に対する潜在的な脅威、逃亡のリスク、さらには国家安全保障上の懸念も考慮していると述べている。

ICEによれば、この記事のためにインタビューした移民の1人は、ニューメキシコ州オテロ郡移民手続センターに収容されているあいだに新型コロナ陽性が確認された。アリゾナ州のエル・リオ・ヘルスによれば別の移民は5月14日に陽性が確認されているが、連邦当局の書類では同日にICEの施設から釈放されている。

ロイターがインタビューした現・元収容者14人の多くは、ハンドソープや消毒剤などの衛生用品を利用できなかったと話している。また6人の収容者は、発熱や長く続く咳、身体の痛みなど新型コロナ感染が疑われる症状のある他の収容者との接触があったと語る。

現収容者の1人によれば、健康上の懸念を口にする者は独房収容というかたちで罰せられるという。この指摘は、4つの州の収容センターで働く弁護士・支援活動家からも聞かれた。

ICEの広報担当者はロイターに対し、「ICEは、収容者が干渉を受けることなしに(健康上の)懸念を訴える権利を十分に尊重しており、いかなる形でもそれに対して報復することはない」と述べている。

複数の弁護士はロイターに対し、ICEによる収容センター内部でのパンデミック対応は、現政権による移民制限の広範な取組みの一環と見られる、と述べている。

「収容者に『死ぬのは怖い、この状況にはもう耐えられない、本国に送還してくれ』と言わせようとする戦略なのだと考えるに至った」と語るのは、アリゾナ州ピマ郡公選弁護人局のスーパーバイザー、マーゴ・カーワン氏。同氏は30年にわたって移民問題担当の弁護士を務めている。

ICEの広報担当者はロイターに対し、ICEは移民が適正手続(デュープロセス)を要求する権利を十分に尊重していると述べている。

ICEの収容センター188カ所を対象とした調査に基づく国土安全保障省の内部監察報告によれば、ICEの収容センターの約90%は、収容者用のマスクや液体石鹸を十分に用意していると回答している。3分の1以上は、収容者用の除菌用ローションが十分ではないと報告している。また施設の12%は、新型コロナ陽性が確認された収容者を隔離・検疫する余裕がないと述べている。スペースの制約により、ソーシャル・ディスタンスの確保が困難であるとする施設も多い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中