最新記事

北欧

保守思想が力を増すスウェーデン──試練の中のスウェーデン(中)

2020年7月10日(金)11時25分
清水 謙(立教大学法学部助教) ※アステイオン92より転載

しかし福祉国家を維持するにしても、財源が必要となる。そこでアリアンセンは、失業保険を切り下げて就労を促し、それによって労働市場を活性化させ、雇用にかかる企業への負担を減税で軽減して雇用を拡大させるという方針を打ち出した。給付の拡大を続ける社会民主党とは異なり、就労の促進と労働市場の活性化で生まれる利益を社会還元することで福祉国家を維持するという政策を示した。社会民主党との差異化によって、二〇〇六年の議会選挙では穏健連合党は社会民主党の支持者を取り込むことに成功して政権交代を果たしたが、保革の政策的収斂が政権交代の要因となったということが多くの研究者によって指摘されている。

往年の「対立争点」であったスウェーデン・モデルが超党派で共有されて「合意争点」となる中で、スウェーデン民主党も独自の福祉国家モデル、すなわち移民/難民にかかるコストを福祉に充てるスウェーデン人優先型の福祉国家を掲げることでその支持を伸ばした。言い換えれば、中道保守の穏健連合党にしても、〝極右〞のスウェーデン民主党にしても、もともと保守の理念であった「国民の家」を取り戻すことによってある意味で原点回帰を果たしたことになる。

スウェーデン民主党の支持層

では、どのような有権者層がスウェーデン民主党に投票しているのだろうか。一言でいうならば、「地方居住の所得の低い民間雇用の若年者層で、全国労働者連盟(以下LO)に加盟している者」である。スウェーデンでは職種ごとの労働組合が存在するが、このLOとはどういう組織かというと、社会民主党の最大支持母体であるブルーカラーの労働組合である。

asteion92_20200710shimizu-chart3.png

「アステイオン」92号85ページより

表3から読み取れるように、近年ではLO加入者の間で社会民主党への投票者が減少する一方で、スウェーデン民主党への投票率が急増している。二〇一八年の議会選挙においては、二四%もの加入者がスウェーデン民主党に投票していることが分かる)(注1)。二〇一九年秋に行われた調査では、社会民主党に共感する加入者は三〇・六%であったのに対して、それを超える三一%がスウェーデン民主党に共感していることが分かっている。

また、スウェーデン民主党支持・共感者の保革自己イメージ評価は赤緑連合よりは右、アリアンセンよりは左という「中位投票者」であることも明らかとなっている。

そうであるとすれば、スウェーデン民主党を反射的に「極右」とラベリングしてよいのだろうか。スウェーデンに限らず、「極右」あるいは「右派ポピュリズム」を抱える国々にも共通する問題であるが、かつての保革対立ではなく移民/難民が軸となっているとすれば、政党の左右の位置づけも再編しなければならないのではないだろうか(以上に関しては、清水謙「スウェーデンにおける移民・難民の包摂と排除│スウェーデン民主党の中道政党化をめぐって」、宮島喬・佐藤成基編著『包摂・共生の政治か、排除の政治か│移民・難民と向き合うヨーロッパ』明石書店、二〇一九年参照)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB議長に「不満」、求めれば辞任するだろう=トラ

ワールド

トランプ氏、中国と「良いディールする」 貿易巡り

ビジネス

米一戸建て住宅着工、8カ月ぶり低水準 3月は14.

ビジネス

ECB、6会合連続利下げ 貿易戦争で「異例の不確実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 8
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    「体調不良で...」機内で斜め前の女性が「仕事休みま…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中