保守思想が力を増すスウェーデン──試練の中のスウェーデン(中)
しかし福祉国家を維持するにしても、財源が必要となる。そこでアリアンセンは、失業保険を切り下げて就労を促し、それによって労働市場を活性化させ、雇用にかかる企業への負担を減税で軽減して雇用を拡大させるという方針を打ち出した。給付の拡大を続ける社会民主党とは異なり、就労の促進と労働市場の活性化で生まれる利益を社会還元することで福祉国家を維持するという政策を示した。社会民主党との差異化によって、二〇〇六年の議会選挙では穏健連合党は社会民主党の支持者を取り込むことに成功して政権交代を果たしたが、保革の政策的収斂が政権交代の要因となったということが多くの研究者によって指摘されている。
往年の「対立争点」であったスウェーデン・モデルが超党派で共有されて「合意争点」となる中で、スウェーデン民主党も独自の福祉国家モデル、すなわち移民/難民にかかるコストを福祉に充てるスウェーデン人優先型の福祉国家を掲げることでその支持を伸ばした。言い換えれば、中道保守の穏健連合党にしても、〝極右〞のスウェーデン民主党にしても、もともと保守の理念であった「国民の家」を取り戻すことによってある意味で原点回帰を果たしたことになる。
スウェーデン民主党の支持層
では、どのような有権者層がスウェーデン民主党に投票しているのだろうか。一言でいうならば、「地方居住の所得の低い民間雇用の若年者層で、全国労働者連盟(以下LO)に加盟している者」である。スウェーデンでは職種ごとの労働組合が存在するが、このLOとはどういう組織かというと、社会民主党の最大支持母体であるブルーカラーの労働組合である。
表3から読み取れるように、近年ではLO加入者の間で社会民主党への投票者が減少する一方で、スウェーデン民主党への投票率が急増している。二〇一八年の議会選挙においては、二四%もの加入者がスウェーデン民主党に投票していることが分かる)(注1)。二〇一九年秋に行われた調査では、社会民主党に共感する加入者は三〇・六%であったのに対して、それを超える三一%がスウェーデン民主党に共感していることが分かっている。
また、スウェーデン民主党支持・共感者の保革自己イメージ評価は赤緑連合よりは右、アリアンセンよりは左という「中位投票者」であることも明らかとなっている。
そうであるとすれば、スウェーデン民主党を反射的に「極右」とラベリングしてよいのだろうか。スウェーデンに限らず、「極右」あるいは「右派ポピュリズム」を抱える国々にも共通する問題であるが、かつての保革対立ではなく移民/難民が軸となっているとすれば、政党の左右の位置づけも再編しなければならないのではないだろうか(以上に関しては、清水謙「スウェーデンにおける移民・難民の包摂と排除│スウェーデン民主党の中道政党化をめぐって」、宮島喬・佐藤成基編著『包摂・共生の政治か、排除の政治か│移民・難民と向き合うヨーロッパ』明石書店、二〇一九年参照)。