最新記事

中国

習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?

2020年7月7日(火)11時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そこで今年は、全人代常務委員会が香港の司法を実際上は直接管轄するような形にしてしまった。司法におけるコモンローの弊害(西側諸国にとってはメリット)から逃れようとしたのが、今般の香港国家安全維持法の目的なのである。

懲役刑として最高刑で無期懲役まで許されるように定めていることからも、その目的は明らかだ。

習近平の父・習忠勲のトラウマから逃れるために

これらは全て、習近平の父・習忠勲が残した負の遺産からの脱却であることも見えてくる。6月18日付のダイヤモンド・オンライン「中国コロナ批判の逆風下、習近平が香港統治をゴリ押しする隠された理由」でも詳述したが、香港返還に当たり、コモンローを受け入れると最初に言ったのは習近平の父・習忠勲だ。1983年のことである。

習近平にはその負い目があり、自分が国家主席である間にコモンローであるが故の司法の問題を何としても解決したいと思っている。次期指導者の政権まで未解決のまま残すと、今は亡き父親が又もや批判の対象となるかもしれないと恐れている。何と言っても父親は毛沢東によって反党分子のレッテルを貼られ、16年間も牢獄生活を送った歴史(冤罪ではあっても「前科」)を持っている。

だから習近平は一歩も譲らない。

来年は建党百周年記念

香港が中国に返還されたのは1997年7月1日だが、この日は中国共産党建党記念日でもある。だから最初から中国共産党の枠組みの中に置かれることが前提となっている。

その証拠に香港基本法には「基本法は全人代常務委員会が最終的に管轄する」ということが明記されており、全人代常務委員会が決定した事項は基本法付属文書三に書き込んでいいことが条文で規定されているのだ。

したがって、今般の香港国家安全維持法は「合法的」であると言えるように、最初から仕組んである。まるで忍者のからくり細工だ。

今般の動きを「コロナのドサクサに紛れて」という人がいるが、この法改正は昨年10月末に開催された四中全会(中共中央委員会第四回全体会議)で決議されている。コロナがなければ今年3月5日に開幕したであろう全人代の最終日に議決したはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中